DISTANCE
「聞いてるのはオレだ」
服部の瞳が細められ、酷く不機嫌そうな顔になる。
「分かって告って来たんや、思ってた。けど、違ったんやな。……オレなんかより、お前のがよっぽど鈍感やんけ」
不機嫌な顔と声のまま。
服部が振り上げた手は、オレの頭をぺしりと叩いた。
「ずぅっと会いたかった相手が、今度こそホンマに目の前に現れたんや。お前やったら、素のままで居られるか?居れへんやろ」
叩かれた所を押さえたままにその声を聞く。
「それにちっこいガキやのうて、同じ目線、同じ年の男相手に、どうしてそれまでと同じ態度が取れるっちゅねん。嫌がられる思うやろ、普通。これから先も一緒に居りたい相手に、誰が嫌われたい思う?思う奴が居ったら教えろや。お前がそうなんか?せやからオレん事、呆れさす事ばっかするんか?」
一気に喋って。
不機嫌だった表情が、少し苦しそうな顔へと変わる。
そのまま、服部は黙って俯いてしまった。
「……違う……」
押さえていた手をゆっくりと下ろしながら、俯いている服部を真っ直ぐに見つめる。
泣いてはいない。
けれど少しだけ見えるその表情は、その時のものに極近い。
「ただもっと……もっと表現して欲しかっただけなんだ。オレがコナンだった頃の、お前みたいに……」
温度差を感じるのは、服部があまり感情を表に出してくれなくなったからだ。
何となく分かった。
怒ったり、拗ねたり、笑ったり。
普通の感情以外の、オレに対する気持ちの部分だけ。
それだけ、見せてくれなくなったんだ。
「何で我慢する必要があんだよ。オレ等、恋人同士なのに。何で今も、その時のまなんだよ」
告白する前の、友達の時ならその理由も納得できた。
けれど今は違う。
別の理由がある筈だ。
「……うやんか」
俯いたままで小さく呟かれた言葉は、最初の方が聞き取れない。
「何?」
少し顔を近づけると、急に顔を上げた服部の瞳と、相当近い距離でぶつかった。
一瞬、怯みそうになって、それを堪える。
「前はお前ちっこかったから。そんでもオレは好きや、一緒に居りたいって、見せ続けなアカンと思っとったけど。今は対等やんか。まして恋人やろ。好きなん前提や。状況が全くちゃうやんか」
物凄く近い距離のまま、正面からお互いの瞳を真っ直ぐ見つめたまま。
その瞳の色は、どんな意味を含んでいるのか、読み取る事が出来ない。
「状況が違うからこそ、表してくれないと不安になるもんなんじゃねーの?」
現にオレは常に不安だ。
好かれているのは分かっていても、それ以上を確かめる術が無い。
「表したら表したで、すぐ怯むクセしてようゆうわ」
「お前がいつ表したっつーんだよ」
好きか訊かなきゃ好きと言わない。
抱き締めるのも、キスをするのもいつもオレから。
本気で何か表現された覚えなんかない。
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