DISTANCE
正直、温度差があると思うのは、きっと気のせいではない筈だ。
オレがまだコナンだった頃。
どちらかと言えば、アイツの好きの方が上回っていたように見えていた。
それが工藤新一に戻った途端、オレの好きの方が上回っているように見えるのは何故か。
アイツはずっと、工藤新一に会いたがっていた筈なのに。
「いきなり何ゆうてんねん」
思い切り呆れたような声が返って来る。
いや、本気で呆れているんだ。
服部の表情がそれを物語っている。
「コナンかて工藤やろ。ゆうてる意味が分からん」
実際のところ、言っているオレ自身も意味が分からない。
けれど、そう考えれば辻褄は合うんだ。
「確かに、初めに会うた時の工藤はコナンやったけど。やからって、何でオレが好きな相手もコナン単独になんねん。……たまーにコイツ、ホンマはアホちゃうか思っとったけど……。工藤お前、実はホンマのアホやろ?」
盛大な溜息。
いつもならこんな憎まれ口、すぐに反論するところだけど。
今日はそんな気も起きない。
黙ったままのオレに、服部は少し困ったような顔になる。
「……工藤?」
覗きこむ瞳に、困惑の色が浮かんだ。
コナンだった頃と今とで、明らかに服部のオレに対する接し方は違う。
いや、工藤新一に戻った瞬間から、だ。
それが分かって、オレは焦ったんだ。
このままじゃ、服部がオレから離れてしまう。
そんな気がして。
だから、一か八か告白をして。
服部がそれを受け入れてくれた時は、本気で嬉しかったし、安心もした。
「オレが工藤新一に完全に戻った時、お前、どう思った?」
好きになればなる程。
距離が近付けば近付く程。
心の距離が、離れてゆく気がする。
「どうって……」
困惑の色を浮かべる瞳が揺らぐ。
必死に言葉を探しているようだが、それより先に更なる問いを向けた。
「どうして、オレに接する態度を変えた?」
すると。
一瞬だけ、服部の表情が真顔になった。
けれど、次の瞬間には少し怒ったような顔になり。
「……それが、オレがホンマはコナンを好きなんちゃうか、って発言の元か?」
少し低い声で問い返してきた。
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