愛の賛歌

 と言うか。
 今日は平日だったってのに、アイツのせいで学校に行きそびれた。

 テーブルには、飲みかけのコーヒー。
 それもそのままに、オレは上着を掴むと、急いで駅へと向った。
 向う先は、大阪。



 昨日は平次を相当怒らせてしまった。
 確かに、分かってる事を言ったオレも悪かっただろう。
 その後頭冷やす為に出てって、暫く留守にしたのも悪かった。
 けど、そこまで怒らなくてもいいじゃねえか、と同時に思う。

「……起きたら居ないとかさぁ……」

 平次が居ないので、仕方なく自分で作った遅い昼食をとりながら。
 いつもなら向かいに居る筈の笑顔を思う。

「やっぱ、いきなり子供できるかも、なんて言い方したのが悪かったかなー……」

 呟いて頭を抱えた。
 瞬間、背後で扉の開く音がする。

「……ただいま……」

 気まずそうにその場で佇む。
 視線も合わせない。

「平次。もう一度ちゃんと話したい事があんだけど」

 言うと、視線は合わせないまま、それでも向かいの席に座って。

「何」

 片手で頬杖をつきながら、ぶっきらぼうに答える。
 素直なんだか、素直じゃないんだか。
 こう言う所は年を取ってもちっとも変わらない。

「オレが言ってた子供の話なんだけど。アレ、オレと他の誰かのじゃなくて。オレとお前の、だからな」

 言ったら、一瞬表情が固まって。
 次の瞬間には驚いた顔でこちらを向いて。
 ホント、コロコロ表情が変わる奴だ。

「………はぁ?何ゆうてんねん。頭おかしいなったんちゃうか?オレとお前のって……在り得へんし」

 普通に考えればそれは正論だ。
 だから最初言った時、勘違いして怒ったのも分からなくもない。
 だが、たった数日留守にしただけで、いきなり子供が出来るかもとか言ってる時点でおかしいと気付け、と言いたい。

「在り得ない事を、在り得る事にしてくれる奴。お前、知らない?」

「……まさか……」

「宮野に相談したらさー。オレとお前の遺伝子配合したクローンが作れねーかな、って話になって。絶対無理じゃねーかも、って。考えてみるっつってくれたからさ、オレもー嬉しくて」

 思い出して少し興奮気味になるオレとは対象に、どんどん冷めた表情になる平次。

「アホか己。いきなりどっちかが未婚の父になってどないすんねん。ちゅうか、手続き関係とか色々面倒ちゃうんか」

「全部ひっくるめて養子縁組みしちまえばオッケー」

 明るくウインクひとつオマケで返す。
 引き攣った笑みから、キレたのが見て取れた。

「オッケーちゃうわボケ!やっぱアカン。こないなアホ付き合いきれん!別れる!!」

「安心しろよ、絶対別れてやんねーから」

 出て行こうとするのを止め、暴れる身体を抱き締めて。

「オレ、お前が居ないと生きてけねーし。死んでもいいなら出てっていいぜ」

 耳元で囁くと。

「勝手に死んどけ」

 言うけれど。
 言葉とは逆で、動かなくなる身体。

「ホントに死んだら、泣いてくれる?」

 振り向いた顔は真顔。
 暫く、そのまま見つめ合って。

「……死ぬ程泣いたる」

 真顔のままそんな事を言うから。

「……泣かせたくねーから、別れてやんね」

 愛してる、を口付けに籠めて。
 気持ちのままに、より強く抱き締めた。



 大阪に着いたのは夕方。
 服部を呼び出して、そのまま告って。
 考えさせてくれと言われて、実は未来のオレ、服部との話し合いに失敗して、未来が変わったのかな、なんて不安になってたりしたけど。
 一ヶ月以上待たされた結果、無事お付き合いは始まった。

「なぁ、服部」

「何や」

「オレん事、名前で呼ぶ気ねぇ?」

「あらへん」

 即行却下。
 まだ愛されてる自信は全然ねーけど。

 そんでも、あんなに愛してくれるようになる。
 オレ等の未来は相当明るい。

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