愛の賛歌
「子供が欲しいんやて。何で女しか子供産めへんのやろって。そんなん分かって今まで居ったんちゃうんかい、って思うやろ。今更何ゆうてんねん、て話やんか?やから、普通に女と付き合うて、結婚して子供作ったらええやろゆうたら。アイツ、アホみたいに怒りよって。その日のうちに出て行きよった。仕事溜まっとるゆうのに、無責任にも程があるわ」
捲くし立てるような愚痴に、呆れと共に急激に苛立ちが収まっていくのを感じる。
服部の話はまだ終わらない。
「で、や。暫く留守して戻ってきたと思ったら、いきなり『子供出来るかも』言いよんねん。デレーっと、嬉しゅーてたまらん、みたいな顔しくさってやな……もう、ホンマ何考えてんねんアイツ。アホちゃうか。浮気どころか子供やと。おま、この短期間でなんべんヤっとんねん、ちゅう話や。ちゅうかどんだけの的中率やねん。しかもその子供、来たらオレに育てろゆうんやで?ホンマ、逝ね思ったわ」
……そこまで一息で言って、やっとコーヒーに口をつけるために黙った。
で、結局のところ。
「つまりは、オレが浮気したのが許せねぇって、そう言う事?」
「はぁ?何聞いてたんや。ちゃうちゃう。お前に心底呆れたから、付き合う前に戻って別の未来歩いたろって話や」
いや、それ、別にその場で別れりゃよくね?
まぁ別れて欲しくはないけど。
つーか、何処で何したら短期間で子供できんのか知らねーけど。
オレが服部と付き合う、これからの楽しい未来まで無くさなくてもよくね?
「ちゅう事やから、こん先オレに告るとかせんといて。ずっと友達で居ったらええねん。お前に告られへんかったら、オレもお前ん事そない意味で好きやー、て気ぃつかんから」
「うん、て事は既にこっちの服部もオレの事好きだっつー事だよな。それ聞いて、何でお友達してなきゃなんねー訳?バカじゃねーの?」
冷静に考えて、服部の言ってる事を実行してやる義理は無い。
確かに傷ついたのかも知れないが、オレだって十分傷付けられてんだからお相子だ。
「バカってなんや、バカって。お前のがよっぽど大バカモンやんけ」
「そんな怒る程オレの事が好きなんだろ?お前。なのに、そのオレとの関係を無かった事にしようとしてる。そんなお前はバカじゃなくて何なんだよ」
呆れ果てた口調で告げると、服部は目を丸くして言葉をなくし。
何度かまばたきした後、瞼を伏せて、ゆっくりとカップをテーブルに置いた。
「……何でオレ、新一だけやのうて、過去にまで来て工藤に説教くらってんねん……。アホやな、ホンマ」
自嘲気味の声と笑み。
すっげー年上の筈だが、オレより年下に見えてくる。
と言うか、ガキだ。
「もう一度未来のオレとちゃんと話せ。何かお前が誤解してっかも知れねーだろ」
女と結婚しろと言われて、オレが相当怒ったのなら。
未来のオレも心底惚れてる筈。
「ホントに、全部失くしちまっていいのかよ?」
俯いている顔を覗き込むように見る。
その顔は複雑な表情をしていたが、視線が合うと僅かに微笑んで。
「ホンマは……無かった事にしたかったんとちゃうくて……もっかい、お前に会いたかったんかもな」
呟いた後、唇が触れた。
未来の服部ってば意外と積極的。
いや、そうじゃなくて。
服部がネックレスに触れ、光が満ちたかと思った瞬間には、その姿は消えていて。
結局最後もやり逃げされてしまった形となった。
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