すたあの恋
バイトから帰ると、自分の部屋の前、見知らぬ男が一人眠りこけていた。
「…誰や、コイツ」
そっと近づき、顔を覗き込んでみる。
色白で端正な顔立ち。
まるで、少女漫画にでも出てきそうなその顔は、どこかで見たような気もするが、よくよく見ても、やはり思い当たる人物はなく。
誰かの部屋と間違えたのだと思われた。
「なぁ、兄ちゃん。こないな場所で寝とったら風邪ひくで」
緩く肩を揺すってみると、ぴくり、と閉じられた瞼が動く。
「………?」
ゆっくりと開いた瞳が、自分を不思議そうに捉えた。
「あんな、兄ちゃん。ここ、オレん家やねん。訪ねる部屋、間違うてへん?」
穏やかな口調でそう告げると、その人は自分と部屋の番号を何度か交互に眺めて、その後やっと口を開くと。
「…ここ、黒羽ん家じゃ…」
覚えのある名前を告げる。
「…ああ。自分、黒羽の連れかいな」
どうやら部屋間違いではないらしい。
納得し、立ち上がると、扉にポケットから出した鍵をさす。
「どーぞ。黒羽は居らんけど。茶くらい出したるで」
開いた扉、怪訝そうな表情を向ける相手を部屋へと招き入れた。
ここが始まり。
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