愛の賛歌

 告白をした時のオレは、フラれる気がしねぇ、と言わんばかりに強気だったと言う。
 それは、未来の自分に会ったせいで、付き合う事が分かっていたからなんだろう、と服部は言った。



「……なんも入ってへんし」

 一応、卵とバターとハムと……チーズとレタスぐらいは入っている筈の冷蔵庫を眺め、しゃがみ込んで思案している。
 あー、あと牛乳。
 普段料理をしないのに、コレだけ入ってりゃ上等だと思うのはオレだけか。

「パンは……あるな。もー、クロックムッシュでええか?サラダ付けたいけど、材料足りな過ぎやわ」

「っつーか、お前料理できんの?」

 オレの知っている服部は全く料理が出来ない。
 15年も経つとやっぱ変わるのか。

「そら、なぁ。大学ん時は一人暮らししとったし……お前もできんで?15年後には。オレよかレパートリー少ないけど」

 言ってニコりと笑う。
 ああ、笑顔は今と変わらないんだ…。
 なんかそこに、漠然とした安心感を覚える。

「いいんじゃね?だって、お前が作ってくれてるんだろ?」

「まぁ、今はな……」

 安心を覚えたのも束の間。
 一瞬、服部の表情が翳った気がした。
 途端沸き起こる不安感。

「どうかしたか?」

 怪訝そうなオレの表情に気付いたのか、ぱっと表情を戻すと。

「工藤。すぐ出来るし、皿並べといて」

 言って背を向け、調理を始めた。
 触れるなと言われたようで、それ以上オレも追求できなくなる。

 出来上がった朝食を一緒に食べて。
 美味しいと言ったオレを、服部は凄く優しい穏やかな瞳で眺めていた。



「しっかし驚いたで。宮野のねーちゃんに貰ったモンで、ホンマ過去に戻れるやなんて。あんねーちゃん、何で有名になろうとせえへんのやろか。不思議やな」

 洗い物を終えて、淹れて来たコーヒーを飲みながら呟く。
 そうか、今回のタイムスリップは宮野が原因か。
 確かにアイツなら何でも出来そうだ。

「てか、何でお前、過去に戻りたいなんて思った訳?やり直したい事でもあんの?」

 素直な疑問をぶつけてみる。
 さっきみたいにまたかわされるかと思ったが、今回はそうじゃなかった。

「ああ。お前との関係、無かった事にしたいねん」
 言われて、一瞬何を言われたのか理解できない。

「せやから、付き合う前のお前に会えたのはええ。けど、付き合うてるのを知られたのは失敗や」

 小さな溜息。
 え、なに?
 オレと付き合いたくねぇって、そう言われた訳?

「……んだよ、それ」

 何でオレ、告るより先にフラれてんの?
 しかも、未来に恋人やってるらしい服部に。

「オレと付き合ったのが失敗だったって……そう思ってるって事かよ?」

「そうや。未来のお前も、きっとそう思っとるわ」

 なんだよそれ。
 意味が分からねえ。

「……なんで、未来のオレがそう思ってるって、言いきれるんだ?」

 それ相当の理由が当然あるんだろ?
 苛立ちながら伝えると。

「子供」

 答える、冷めた瞳の服部と目が合った。

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