Permit

 見開かれる瞳。

「………もう、十分だ…。記憶を失ってまで、許そうとしてくれた……笑ってくれた…。それで、十分だから」

 ただオレを見つめる瞳に、涙が出そうになる。
 両腕の間で、じっと動かない、その姿が悲しい。

「だからもう……」

 俯いた途端、ずっと抑えてきた涙が、ぽたぽたと零れた。

 頬に、そろそろと片手が当てられる。

「………そんな苦しんで………アホやな、工藤」

 もう片方の手も添えられ、上げさせられた瞳に、柔らかく笑む服部のそれが映った。

「キライなんて……傷付けたな。ごめん…」

 ふわり。
 服部がオレを抱き締めた。

「……お前……記憶…」

 見上げると、服部の瞳がふっと笑った。

「せやから待て、ゆうたのに。あん時、工藤がどんな顔してたかも、ちゃんと思い出してんで。今と同じ。めっちゃ苦しそうな顔しとったな。…ショックなのはオレや、ちゅうに。ホンマ、アホやで」

 服部を無理矢理に抱きながら、苦しくて、心が痛くて。
 後悔しても、止められなかった。

「ごめん」

「謝るくらいなら最初からすな、ボケ」

 軽く頭を叩かれて。
 急に力の抜けた脚に、ふらふらと廊下の縁に座り込んだ。

「こらもう、ホンマに責任とって養子縁組してもらわなアカンかなぁ?オレ傷モンやし。婿の貰い手居らんで」

 目の前にしゃがみ込んで、そんな軽口を叩く。
 ついさっきも、怯えて動けなかったんじゃないのか?
 強い瞳の色も戻っている。

「…何で、怒らないんだよ。何で、責めないんだ。何で許せるんだよ…あんな事されて、どうして」

「何で、て。オレ、工藤ん事好きやし。別に死ぬワケちゃうしええか、って」

 さらりと答えて、に、と笑んで見せる。
 ぽかんとしているオレは置き去りだ。

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