Permit
見開かれる瞳。
「………もう、十分だ…。記憶を失ってまで、許そうとしてくれた……笑ってくれた…。それで、十分だから」
ただオレを見つめる瞳に、涙が出そうになる。
両腕の間で、じっと動かない、その姿が悲しい。
「だからもう……」
俯いた途端、ずっと抑えてきた涙が、ぽたぽたと零れた。
頬に、そろそろと片手が当てられる。
「………そんな苦しんで………アホやな、工藤」
もう片方の手も添えられ、上げさせられた瞳に、柔らかく笑む服部のそれが映った。
「キライなんて……傷付けたな。ごめん…」
ふわり。
服部がオレを抱き締めた。
「……お前……記憶…」
見上げると、服部の瞳がふっと笑った。
「せやから待て、ゆうたのに。あん時、工藤がどんな顔してたかも、ちゃんと思い出してんで。今と同じ。めっちゃ苦しそうな顔しとったな。…ショックなのはオレや、ちゅうに。ホンマ、アホやで」
服部を無理矢理に抱きながら、苦しくて、心が痛くて。
後悔しても、止められなかった。
「ごめん」
「謝るくらいなら最初からすな、ボケ」
軽く頭を叩かれて。
急に力の抜けた脚に、ふらふらと廊下の縁に座り込んだ。
「こらもう、ホンマに責任とって養子縁組してもらわなアカンかなぁ?オレ傷モンやし。婿の貰い手居らんで」
目の前にしゃがみ込んで、そんな軽口を叩く。
ついさっきも、怯えて動けなかったんじゃないのか?
強い瞳の色も戻っている。
「…何で、怒らないんだよ。何で、責めないんだ。何で許せるんだよ…あんな事されて、どうして」
「何で、て。オレ、工藤ん事好きやし。別に死ぬワケちゃうしええか、って」
さらりと答えて、に、と笑んで見せる。
ぽかんとしているオレは置き去りだ。
[ 277/289 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]