Permit

「なぁ、そんなとこ突っ立っとらんと、はよこっち来て座り」

 言いながら、服部はオレの為に椅子を用意してくれる。
 それでも動かないオレに、ぽんぽんと椅子の上を叩いて、そこに座るよう催促をしてきた。
 仕方なしに差し出された椅子に座ると、無邪気に満足そうな笑みを浮かべる服部。

 こんな顔は、二度と見られないと思っていたのに。
 それも、こんな近くで。

「なぁなぁ、オレとはどんな友達やったんや?」

 知らないものに興味を持つ子供のようだ。
 キラキラした目で俺を見る。

「友達…」

 オレの呟きに。

「ちゃうんか?やって、仲良かったんやろ?さっき、おかんもゆうてたやんか」

 少しだけ、怪訝そうな顔をする。

「ああ……仲、良かったよ。しょっちゅう一緒に居た。捜査にもよく行った」

「捜査?っちゅう事は、じぶんも探偵なんや。けど、大阪の人ちゃうやんな?どうして知り合うたん?」

「それは…お前が、オレを訪ねてきて…」

 次々繰り出される質問に、出会った所から、一緒に行った所、見た景色…。
 あの日以外の事は殆ど話した。

 その話を、ずっと楽しそうに聞いていて。
 最後には。

「ほんま、大親友やったんやな、オレ等」

 そう言って笑った。
 その笑顔が苦しくて……。

「…どないした?どっか痛むんか?」

 俯き、黙ってしまったオレを覗き込む。
 その瞳は、あの頃の服部の瞳そのまま。

 その瞳に、はっとする。

 天罰だと思っていた。
 けど、もしかしたら。

「…工藤?」

 もう呼ばれる事はないと思った名前。
 無くしてしまった筈の、オレを映してくれる、暖かな瞳。

「服部……お前…」

「すっかり遅なってしもた。ずっと一人で相手させとってごめんねぇ、工藤君」

 背後から聞こえた声に、続く言葉を飲み込んだ。

「どう?平次。少しは工藤君の事思い出した?」

 袋から取り出した缶コーヒーを、オレと服部に手渡しながら静華さんが問い、服部はそれに緩く首を横に振った。

「けど、ほんま仲良かったんやろな、てのは分かった。オレ、めっちゃ工藤ん事好きやったんちゃうかな」

 好き、と言う言葉と、『キライ』と言う言葉が重なって聞こえて。
 一瞬ドキリとした。

「あらあら、記憶を失くしても、やっぱあんた工藤君の事好きになるんやね。結婚したいとか言わんといてよ?」

「ははは、どうやろ。そうなったら、どっちに養子縁組するか考えな」

 冗談を言い合って笑い合う、そんな二人の声がどこか遠くの話し声に聞こえる。
 今目の前に居る服部と、あの日の服部が、頭の中で交差して。
 吐き気に似た何かがこみ上げる。

「………オレ、そろそろ…帰ります」

「もう帰るん?ほな、気ぃつけて。また遊びに来たってな」

 よろり、椅子から立ち上がって。
 静華さんに一礼して扉へ向う。

「工藤。お前、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だよ…」

 そちらは向かずに答えて部屋を出て。
 そのまま病院を後にした。

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