TIME AFTER TIME

 元の姿に戻りたい。
 それと同時に、今の姿のままでいい。
 そう思う自分が居た事も、恐らく服部は知っている。

 その夜また、夢を見た。
 そう、工藤新一の夢。

 目覚めたオレは、泣いていた。
 夢は、いつか醒めるから、夢。

「……工藤?」

 布団の上で、起きた格好のまま、ただ呆然と涙を流しているだけのオレ。
 服部は心配そうに、このみっともない顔を覗き込んできた。

「………凄く、つらい…」

 月明かりしかない暗闇で。
 それでもはっきり分かる、優しい瞳。

 その瞳が閉じて。
 ゆっくりと近付いて。
 温かい唇が、オレのそれに優しく触れる。

「泣かんといて。大丈夫やから。きっと、大丈夫やから」

 離れた唇が、そんな事を繰り返す。

「…大丈夫…?」

「ん。大丈夫」

 そう言って、優しく包んでくれる服部の後ろ。
 窓からは、大きな月がオレ達を覗いていた。

 その穏やかな光は、どこか冷たさを感じる。



 夢の中のオレ。
 工藤新一は泣いていた。

 月を眺め。
 
「服部」

 繰り返し、その名を呼んで。

「…ほんまは、限界を超えとる」

 オレを抱き締めたまま、静かに服部が呟く。

「そんでも、お前が望むなら…そう思ってた」

 語る口調とは逆に、抱き締める腕は強くなって。

「けど、あかんわ」

 もう一度、ぎゅっと力強く抱き締めた。
 その後、緩められた腕がオレから離れる。

「オレはやっぱり、元のお前に会いたい。元のお前に、笑ってて欲しい」

 微笑んだその顔は、恐らく今まで見た中で一番綺麗な微笑だった。
 綺麗で、儚い。

「甘えるだけなんて、お前らしいないで。オレの好きな工藤は、もっとずっと強い」

 片手が伸ばされて。
 いつものように、乱暴に髪を撫でられて。

 眩しい程の、月明かり。
 その光に目を細めた。
 狭まった視界の中、服部が霞んで………。

「服部」

 次に開いた瞳の中、服部は居なかった。

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