はるかぜ

「工藤。伝えて」

 両肩をそっと掴んで、少しだけ体を離されて。
 真っ直ぐな瞳が、己のそれを捉えて。

 感じる予感。

「………。言ったら、お前はまた逝っちまうんだろう?」

 問いには答えない。
 ただ、少し困ったようなその微笑が、答えは告げていた。

「言わなくても…きっと逝っちまうけどな…」

 無言で頷く。

「オレが、全部持ってく。オレが、全部覚えとく。その為に来たんや。工藤が、また歩き出すように」

 そう、これは奇跡。
 本来なら有り得ない、不自然な現実。
 だから、自然の圧力の中、長くは保てない。
 それが摂理。

「やから、伝えて。お前の気持ち。お前の言葉、全部」

 伝えたいのは、たった一言。
 そして、伝えなければならないのも、一言。

「工藤」

 服部の表情から微笑が消えて、よく知っている、真っ直ぐなものへと変わる。
 昔に戻ったみたいだ。

 ああ、そうだよ。
 微笑んだ顔も、その瞳がオレは…―――。

「オレは、お前が……本当に、好きだった」

 好きで、好きで。
 ずっと見ていたかった。

「ん、知ってた」

 また流れ始めて、工藤の頬を伝う涙を、服部がそっと指でぬぐう。

「両想いやな」
「バーロ……片想い、だろ?」

 だって、お前はもう居ないから。

 永遠に叶う事ない片想い。
 いつか、思い出になっても。
 思い出せば、心が熱くなるような。


 花びらが舞う。
 少しずつ、舞う量は増えてゆき、終わりの時間を告げていく。

「服部」

 真っ直ぐに見つめる瞳を見つめ返し。
 涙は止まらない。
 けれど、それでも微笑んで。

「バイバイ…」

 伝えた一言。
 服部が微笑む。

「………。さよなら」

 そしてまた、風が強く吹く。

 花吹雪の中。
 服部の姿が霞んで、消えた。



 彼が亡くなったあの日。
 世界は、全ての色を失った気がした。
 何をしていても、何を見ていても、心はそこに居なくて。
 その心が。
 失ったはずの世界の色が。

 彼が消えた、その瞬間に流れ込む。

『なぁ、工藤。笑って』

 気付けは涙も止まっていて。
 美しさに、微笑みがこぼれた。

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