はるかぜ

 あれから、幾度となく、同じ季節がめぐった。
 辺り一面が薄紅に染まる場所。

 あの日見た景色と同じ。

 違うのは、コナンではなく、工藤新一としてこの場所に居る事。
 そして、服部が居ない事。

「お陰で、元の身体に戻れたんだ、オレ」

 呟いて、じっと己の掌を見る。

 この姿を、一番望んでいたのは自分。
 そして、同じくらいこの姿の自分に、会いたかったのであろう彼。

「自分のやった仕事。結末ぐらい確かめやがれ。バーロー」

 ざあ、と。
 強い風が吹いて花びらが舞い、視界を薄紅に染める。
 降りしきる、桜雨。

 その中。

「良かったな。ちゃんと元に戻れて」

 あの日から、ずっと求めた。
 その、微笑み。
 その姿。

「何やその顔。みっともないなぁ」

 からかうように言って、笑うその声。

「男前が台無しやぞ」

 伸ばした手。
 指先が触れた。

 ちゃんとある、感触。

「服部…」

 手を掴んで、引き寄せて。
 抱きしめれば、伝わるぬくもり。
 懐かしい、匂い。

「工藤がええ子にしとったから、神さんからお前へのプレゼントやて」

 何か話さなければと思うほど、何も言葉は出てこなくて。
 ただ、服部の声を聞いているしかできない。

「アホやなぁ、工藤。オレに会いたいなんて、しょーもない願いしか持ってへんやなんて。もっとええプレゼント貰とけばええのに」

 服部の言うように、本当に神が居て、これがそのプレゼントなら。
 一生感謝してもいい。
 自分は決して、いい子ではないと思うけれど。
 いい子で願いをかなえてくれるなら、ずっといい子で居てもいい。

 思いながら、顔を上げてしっかりと見る。
 あの頃と変わらない、飾らないその微笑み。
 掴んだ腕は、放さない。

「…くだらなくなんてない。最高のプレゼントだよ…」

 微笑めば、『そうか』と、彼は答えて目を伏せた。

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