はるかぜ

 数日後。
 葬儀参列を終え、大阪から戻ってくると、郵便受けに1通の手紙が届いてた。
 差出人は、服部平次。

『これをお前が読んどる頃、オレはまだ傍におるか?
 多分、いてへんのやろな。
 そんな気がする。
 せやから、一応手紙を書いておく事にした。』

 消印は、服部が電話を寄越した…一緒に桜を見たあの日。
 電話では普通だったけれど、既に覚悟はしていたようだ。

『お前をちっさくした組織の事やけど、実はオレなりに単独で色々調べとったんや。』

 その一文を目にして、コナンの瞳が大きく見開かれた。
 本当に、勝手な事ばかり…。
 手紙を持つ手が小さく震える。

『先月末に大阪で起きた、大学教授の殺人事件、お前も知っとるやろ?
 その人な、お前が飲まされた薬の、開発チームの一人やったんや。
 開発に関わるうち、怖なって何とか計画を阻止出来ないか、て思っとったらしい。
 開発データやら何やら、極秘でオレに渡してきて、組織に分からへんよう警察と手を組んで何とか止めてくれ、て頼んできよった。
 ところが。
 それがその組織にバレてもうたんやな。
 オレの事も、もしかせんでもバレると思う。
 せやから、その前にお前とも会っとこうか、思って今回そっちに向かう事にしたんや。』

 そして、向かう途中の新幹線で、組織のヤツに捕まり殺された。
 なんて。
 なんて馬鹿なんだろう。
 近付きすぎれば、自分の命が危ない事ぐらい分かっていた筈なのに。

『あ、そうや。
 薬の成分データな、例のねーちゃんにも送っといたで。
 ほな。

 追伸。
 無事元に戻ったお前が、幸せである事を祈っとる。』

 手紙はそこで終わっていた。

「…ええ。届いてるわよ。彼の手書きのデータがね」

 言うと、灰原は綴られたレポート用紙をテーブルの上に置いた。

「ディスクから再度コピーやプリントをしようすると、そのコマンドを送った瞬間に消えるようにしてあったのね。だから彼、全部これに書き写したんだと思うわ。相当な量よ。大変だったでしょうね」

 レポートを手に取る。
 確かに、手紙と同じ筆跡の文字がそこにはある。

「…これ、本物なのか」

 ここまでして。
 もし偽物だったら彼が浮かばれない。

「本物よ。私が組織に居た時に見ていた、扱ったものと同じだわ。お陰で、足りなかったものが何か、それを知る事が出来た。あなた、元に戻れるのよ」

 元に戻れる。
 高校生の、工藤新一に。
 ずっと願っていた事だ。
 それが叶う。
 なのに…。

「浮かない顔ね」
「…たりめーだ…」

 元に戻る代償が、大切な人の命だなんて。
 この姿になってから、一番自分を分かってくれていた、近くに居た人だった。
 唯一、親友と呼べる人だった。
 そして、気持ちではそれ以上の人。
 その人を…オレは…。

「もっと喜びなさいよ。でなきゃ彼が悲しむわ。きっと、彼はあなたのそんな顔、望んでなかった筈よ」

 俯き、瞳を閉じる。
 すると。

『オレんせいで自分を責めたりもせんといてくれな』

 頭の中、いつかの服部の声がした。
 はっ、と顔を上げる。

『工藤』

 脳裏に浮かんだのは、自分を呼ぶ、その笑顔。

「…ホント、バカなヤツだよ…」
「工藤君…?」



 話したい事も、一緒に見たい景色も。
 まだまだ沢山あったのに。

 伝えていない事だって…。

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