はるかぜ

『コナン君?!どうしてずっと携帯の電源切ってたのっ!』

 出てみれば相手は蘭。
 その言葉に疑問が浮かんだ。

「え…ボク、電源入れっぱなしだったけど…」

 そう。
 今日は朝から一度も、携帯の電源を切った覚えはない。
 電波状況の悪い所も何度か通ったが、それ程長い時間じゃなかった筈だ。
 どう言う事だろう?

『何度も電話したのよっ。けど通じなくて……とにかく!すぐに帰って来て!!』

 何かあったのだろうか。
 酷く焦っているような、混乱しているような…そんな声。

「あ…ボク今平次兄ちゃんと一緒で……何かあ…―」
『一緒…?何言ってるの…?その服部君が大変なのよ、コナン君!』

 全て言い終わる前に蘭が言葉を挟んだので、コナンの最後の言葉は打ち消されてしまった。
 きっと、おっちゃんの所にも警察から連絡が来たのだろう。
 服部が人を殺した、その連絡が。

「わ、分かった…今から平次兄ちゃん連れて一緒に帰るよ」

 もう分かっているのなら、自分が連れて行って、服部には自首をさせよう。
 そう思っていた。
 だが。

『…どう言う事なの…』

 動揺した蘭の声に、自分までが動揺してしまいそうになる。
 …どう言う事…?
 逃走した服部が、仲の良い自分と一緒に居ても何も不思議は無いはずだ。
 まして、コナンがその事件を知らなかったとすれば。
 なのに。

「蘭ねーちゃん…?」

 様子がおかしい。
 何か、嫌な感じがする。

『…コナン君…。そこに、服部君が居るの…?』

 大きく、鼓動が鳴った。

「………」

 振り返れば、そこには確かに服部が居る。
 けれど、この蘭の反応は。
 ここに服部が居る事が信じられない、そんな感じのもの。

「…はっと……平次兄ちゃんが、どうかしたの?蘭ねーちゃん…?」

 自分に微笑みかけている服部から目が離せない。
 瞬きさえ出来ずに、ただ電話の向こうの声を待った。

『コナン君…』

 やっと返った声は、泣いているような、そんな声で。
 心臓が、絞られているかのように痛くなる。
 ただそれを堪え、黙って続きを聞いた。

『…今は…服部君の……傍に居てあげて…』

 そう言うと電話は切れて。
 携帯を持つ手を、ゆっくりと下ろしながら呆然と服部を見た。

「………」

 彼は、相変わらず微笑むような表情を自分に向けている。
 蘭の最後の言葉が理解できなかった。
 と言うよりも、きっと理解したくなかったのだと思う。
 けれど、理解しなければならない。
 服部の瞳が、そう告げているように見える。

 人を殺した、と服部は自分に言った。
 あれだけ正義感の強かった人間。
 そんなヤツが、人を殺してこんな落ち着いていられるか…?
 居られる訳が無い。

「…服部…」

 一緒に見ておきたかった。
 その言葉の真実は、自分が罪を犯したから、ではなくて。
 言葉のまま、もう見る事が出来なくなるから?

「…お前が殺したヤツって…」

 許してくれるか?
 その言葉の意味は…。

「オレや」

 自分が死んでしまった事を、許してくれるか。
 そう言う意味。

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