はるかぜ

「…出たか?」

 無言のまま、首を横に振る事で返された返事に、小五郎は小さく溜息を吐いた。

「ったく…こんな時に。おい蘭。オレぁ先に行くぞ。お前はコナンと連絡が取れてから来い」
「…うん…」

 蘭の返事を聞くと、小五郎は急ぎ事務所を出て行った。
 一人取り残された事務所で、蘭はリダイヤルを繰り返す。
 何度かけても繋がらない。

「…どうして出てくれないの。お願い、早く…早く出て…」

『お架けになった電話は、電波の届かないところか、電源が…―』

 また、同じ声が蘭の耳に響いた。



「綺麗なぁ」

 服部の行くがままに連れて来られた公園。
 そこには満開の桜が立ち並んでいて。
 まるで雨のよう、花弁が風に舞っていた。

「…行きたいトコって…花見がしたかったのかよ」

 やっと立ち止まった服部に追いついて、コナンもその木々を仰ぐ。

「ああ。どーしてもお前と一緒に見ときたくてのー」

 呟くような返答の、その語尾が気になって。
 思わず、木々を見上げたままの服部を見た。

「…見て『おきたくて』?」

 まるで、今後は一緒に見られなくなる。
 そんな言い方だ。

「何か…あったのか…?」

 不安の色が浮かんでいるであろう自分を、振り返った服部は僅かに笑みを浮かべていて。
 その問いに答えるでもなく。

「もちっと奥行ってみよか。ここな、ご神木にもなってる、でっかい桜の木があるんやて」

 そう言っただけで。
 更に詰め寄ろうとしたコナンに背を向けると、またゆっくりと歩き出してしまった。

 一体何だと言うのか。
 朝、電話を寄越した時の彼は、いつもと何も変わらなかった。
 なのに。
 駅で出会った時には、既にどこか様子が違っていた。
 新幹線の中…若しくはホームで。

 何があった?

「着いたで」

 掛かった声に、ぐるぐると廻っていた思考がとまる。
 顔を上げると、服部の向こう、大きな桜が目に入ってきた。
 他の桜とは離れ、ここに一本だけ。
 ご神木の名に相応しい立派なそれは、他の桜同様薄紅の雨を降らせていて。
 その雨に、服部が霞んで消えてしまう。
 そんな錯覚を覚えたのは、きっと大きくなるばかりの不安のせいだろう。
 そう思っていた。

「…答えてくれ。服部、何があったんだよ?なぁ…」

 堪らず、背を向けたままの彼に声をかけた。

「………」

 最初は何も答えず黙ったまま。
 暫くして。
 やっと答える気になったのか、服部がゆっくりと自分の方を向いた。
 真っ直ぐに自分を見る目。
 先程まで浮かべていた笑みが消えていて、自分の鼓動が少しだけ大きく聞こえる。
 そしてそれは、彼の発した言葉で更に大きくなった。

「オレな、殺しやってしもた」

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