はるかぜ

「服部平次くんだね?」

「…」

「先日君が手に入れた物。返してもらおうか」

「断る、ゆうたら?」

「……」



「………遅ぇ」

 30分頃に着くから、改札付近で待っといてくれ。
 言われ、時間丁度くらいにここに来て、既に30分は待っている。

「何やってんだ、アイツ」

 電話をかけてきた時、アイツは走っている新幹線の中だったし、待つよう言っておいて、途中で下車するとも思えない。
 となると、まだホームに居るか、トイレ、と言う事になるが。
 30分もトイレは流石にないだろう。

「やっぱホームで何かあったのか…?」

 少し前、警察らしき人達が改札を抜けてゆくのを見た。

 アイツの事だ。
 何か事件でもあったなら、即行で首を突っ込んでいるに違いない。

「…ま、オレでもそうだろうけど」

 仕方なしに、見送りようの入場券を買いに、券売機へ向かおうとしたその時。

「すまんすまん。待たせたな」

 背後から声が聞こえ振り返る。
 と、そこには服部が立っていた。

「すまん、じゃねーよ。テメ、人待たせて何してやがった」

 どうやら事件に首を突っ込んでいたのではないらしい。
 苦笑いする相手を睨むように見上げると、更にその苦笑いが濃くなった。

「道分からんから教えてくれ、言う婆さんに捕まってなぁ。駅の外まで付き合うてたんや。ホンマすまん」
「だったらメールくらい入れろよ」

 不機嫌な声を向け、視線を外す。
 その先に、先ほどの警官達が慌ただしく動いている姿が映った。

「そう言や服部。ホームで何かあったみてーだけど…。お前知ってるか?」

 親指の先が差す方へ、服部が視線を向ける。

「いや、知らん」

 視線を戻して首を横に振る相手に、『そうか』と小さく息をもらした。
 知っていたら、ちょっと事件の捜査とか加われるかな…と淡い期待をもってみたのだが。
 その期待は見事に外れたようだった。

「さて。したら移動しようや。ずっとここ居っても時間勿体無いやろ」

 遅れて来た奴が何言ってやがる、とも思ったが。
 事件に関われないなら確かにそうだ、と改札に背を向け歩き出す。

 その際、目暮警部を見たような気がして。

「…なぁ。やっぱでかい事件が起きたんじゃないか?戻って一緒に…」

 振り返った肩を、服部が強く掴んだ。

「警察に任せとったらええ。解決でけへんかったら、嫌でも毛利のおっちゃんトコに相談あるやろ」

 服部らしくない台詞。

「…服部?」

 訝しげに見上げるが、それに反応を返すでもない。

「ほら、行くで」

 行動に違和感を感じる。
 先に歩き出してしまった相手の背中を見つめた。

 アイツは、事件と聞いたら、オレと同じでじっとしてられない奴じゃなかったか?
 何で…。

「…置いてくぞ」

 一度立ち止まって振り返り、言うとまた歩き出す。

「あ…ちょ、待てよ服部っ」

 警部の事や違和感も気になったけれど、取り合えず今は慌てて彼の後を追った。

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