願い
例えば5年後、10年後。
君の隣に、僕が居なかったとしても。
今この瞬間の君が真実ならば。
今この瞬間の自分が幸せならば、それでいい。
「はー……疲れた」
扉を開いて部屋に入ってきた服部は、ネクタイを緩めながらそう呟いて、ソファにどかりと腰を沈める。
「おかえり。和葉さんの結婚式、どうだった?」
「……アイツ、ブーケわざとオレ目掛けて放りよって。オレもそれ条件反射で取ってもーたもんやから、独身女めっちゃ居るのに大顰蹙や。ホンマ、えらい目に遭うたで……」
「ははは、和葉さんらしいな。望み通り、今度はお前がウエディングドレス着てやれよ」
アホか。
ぶつぶつ言いながら、解いたネクタイをテーブルに置いて。
服部が、そこにあるカップに目を止める。
「誰かお客さん来とったん?今日予約あったっけ?」
カップを眺めて首を捻る服部に、首を緩く横に振り。
「いんや?予約は今日は無し。ま、確かに可愛いお客さんは来てたけど」
コーヒーの入ったカップを渡しながら、工藤がニヤニヤと笑みながら答える。
受け取りつつ、その姿を不審な目で見て。
「可愛ぇ客ぅ〜?新一お前、オレが居らんのをいい事に、女呼んで浮気でもしとったんやろ」
あからさまにムッとした表情を工藤に向ける。
「んなワケねーだろ」
女の香りしねーだろ。
言って笑って。
工藤は服部の頬に口付け、『愛してるのはお前だけ』なんて気障なセリフを捧げた。
「懐かしい人が来てた。昔。18の時に大好きだった人」
「……18て……既にオレと付き合うてる時やんけ。誰や、そいつ。蘭さんちゃうやろ?」
「内緒。けど、誓ってオレは、ずっとお前に一途だよ」
「へー、さよけ」
やれやれと、服部は肩を竦めて。
それ以上追求する気はないらしく、カップに口をつけてコーヒーを啜った。
その様子を眺めながら工藤は。
そのどっちでもなくて、オレと一緒にここで探偵やってんだって、言ってやりゃ良かったかな。
なんて、今更な事を思っていた。
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