U&I

『ピンポーン』

 玄関のチャイムが鳴って、そちらを振り返る。

「はい。どちら様ですか?」

 答えは返らない。ノックをされるでもなく、扉が開くでもない。もう一度チャイムがなる気配もない。

「何だ? 悪戯か?」

 怪訝な表情を浮べて、扉の前に立つ。覗き穴を覗いてみるが、そこには誰の姿も見えなかった。

「今日は別に依頼人が来る予定もないしな……マジ悪戯か? ったく、説教でもしてやるか」

 靴を履き、ドアノブを握る。回して、開いたドア。その先に人は居ない。くるり、視線を巡らした。その先。

「……」

 知らない男が立っている。けれど、オレには分かる。
 褐色の肌。見た目硬そうな髪。気まずそうな、けれど優しそうな遠慮気味の笑顔。

「ただいま」
「服部……っ」

 駆け寄って抱き締めた体。ちゃんとある実感と、伝わる温もり。これが夢ではないと告げている。

「すまん。大分遅なった」
「バーロ……。何年待ったと思ってんだ」
「10年?」

 そう、10年。あの日から、10年待ち続けた。

『何があっても。絶対、何が何でも工藤のトコに戻る。それは約束する』

 その言葉を信じて。絶対に帰ってくると。生きていると信じて。

「約束しとったハンバーグの材料、ちゃーんと買って来たし。許したって」
「食い物じゃ誤魔化されねーぞ。……あっ、静華さんに電話……っ」

 携帯を取り出し、静華さんと話す姿を。スーパーの袋を両手に提げたまま、服部が笑みを浮べて見つめていた。

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