U&I
それからまた、月日は流れた。
時が流れるのは早い。いつか、蘭がオレに言った言葉。確か、服部が居なくなって1年が過ぎた時だ。本当に、時の流れは早過ぎる。あれから、どれだけの季節が過ぎたのだろう。
服部は居ないまま、時間だけは過ぎていって。けれど、居ない事に慣れるなんて事はなくて。オレは何一つ忘れていないのに。かつてオレと並び評された探偵がいた事を、世間は時の流れと共に忘れた。
人は、完全に忘れ去られた時に死ぬ。オレは何も忘れていない。服部の両親だって。和葉ちゃんだって。だから、アイツは死なない。死んでない。
「服部。お前、いつ帰って来るんだよ。オレ、結構いいおっさんになっちまったぜ?」
実際、おっさんと言うにはまだ全然若い。けれど、服部が知っているオレではなくなった。10代の頃は母さんに似てると言われる事が多かったけど、今は専ら父さんに似ていると言われる。
「帰ったら作ってくれるって言ったハンバーグ。いつ食えるんだよ」
鏡の中。確かに若い頃の父さんに似た顔が、陰のある笑みを浮べた。
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