U&I

 あの日、家を出た服部は。依頼人のうちに向かう途中、増水した川で子供が溺れている光景を目にした。
 水の勢いにどうする事もできず、救助が来るのを待てと周りの人に押さえられ、ただ泣き叫ぶ身内の姿に。正義感の強いアイツがとる行動なんて想像が容易い。当然、川に飛び込んで子供を助けた。
 助けた子供が親の腕に抱かれる。その姿を目にして、一瞬気が抜けて。その瞬間、バランスを崩したアイツはあっと言う間に流れに飲まれた。
 自分の事なんて、ちっとも考えちゃいない。自分を囲む人の事だって。ただ、目の前の命を助けたくて。ただそれだけで。

 流された服部が見つからない。

 そんな電話を受けたのは、昼を過ぎた頃だった。服部が水に入る前に置いた荷物の中に携帯があって、『自宅』と登録されていたのがオレらのアパートで。警察からの連絡を真っ先に受けたのは、服部の両親ではなくオレだった。
 急いでアパートを出て、服部の両親に連絡をして。現場に向かったその後の事は、数日間を含め正直殆ど覚えていない。

「新一。ちゃんとご飯食べてるの?」
「食べてるよ」

 コーヒーを淹れて、自分の分と蘭の分。カップに注いでテーブルへと運ぶ。

「もう1年か……時が流れるのって早いね」
「ああ」
「和葉ちゃんから連絡があって。服部君のご両親と親戚が、失踪宣言を出す出さないで揉めてるって」
「……アイツは生きてるよ。そう簡単にくたばるような奴じゃねえ。アイツの両親だって、そう思ってるんだろ」
「そうだね……」

 流された服部の捜索は、大人数を投入して何日も行われた。けれど、何も発見できなかった。何も、だ。着ていた服も。靴も。本人も。何一つ。
 だからきっと、服部は生きている。流される中、頭を打って記憶をなくして。どこかを彷徨って、誰かに保護されて。自分が誰かも分からないまま、今もどこかで生きている。オレはそう信じている。

「絶対見つけてやる。オレが、絶対」

 カップの中、揺蕩うコーヒーを眺めながら。呟くように言ったその言葉に。

「そうだね。新一は、名探偵だから……きっと見つかるよね。もし、新一が見つけられなくても。服部君も名探偵だから……どんなに新一が変わっていても、きっとすぐに見つけてくれるよ」

 蘭が、少し悲しそうな笑みを浮べてそう言った。

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