日常

「うっまい!」

 平次の作った料理を口に運んで。ナイフとフォークを握り締めたまま、新一の口から出る言葉は嘘やお世辞ではない。恐らく、新一以外の者が口にすれば、それは普通の味なのかも知れない。だが、料理は愛情。それは何も、作る側だけの話ではない。食べる方も、愛情に溢れていればいるだけ、その料理は美味くなる。

「すげー美味い!」
「褒め過ぎやろ。うさんくさい」
「ホントだって。お前も食ってみろよ、ほら」

 ナイフに刺した料理を、平次の方へずい、と向けて。口を開けろ、と言わんばかりに新一が大きく口を開く。
 恥ずかしい奴だな、と思うものの。ここは自分達の家で、他に誰が居る訳でもない。テーブルに両手をついて、平次が少しだけ身を乗り出す。あーん、と開いた口に料理が入ると同時。

「な?美味いだろ」

 新一が訊いて。口に入った瞬間に味が分かるか、と思いながら。

「ん、美味い。まあ、オレが作ったのやから当然っちゃ当然」

 そう平次が答えると。

「はは、そうだな。オレには無理だ」

 新一は満足そうに元の姿勢に戻って。また食事の続きを楽しみ始める。
 オレには無理だ。新一はそう言うが。確かに本格的な料理はできないものの、朝たまに作ってくれるフレンチトーストとスクランブルエッグはとても美味い。新一が作った朝食を食べられた日は、平次は1日ご機嫌だったりする。

「そんなことあらへんで」
「ん?」
「いや、なんも。ほれ、こっちも食べ」
「んー」

 自分が作ったものを、本当に美味しそうに食べてくれる姿を見て微笑む平次と。そんな平次の微笑みを見て、幸せの笑みが零れる新一と。家族と過ごすものとは違う。2人だけの誕生日。それは、子供の頃に食べたバースデーケーキみたいにふわふわで、ほんのり甘い。1年に2度巡り来る。日付が変わる瞬間まで続く、幸せが溢れる時間。
 日常の中の、特別な1日。

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