願い
「――……り……っとり……服部!!」
はっ、と。
目を開くと、必死に自分を呼ぶ声。
そして相当近い位置にある、世界の終わりみたいな工藤の顔。
それらが一気に飛び込んできた。
目を開いた服部に気付き、次の瞬間には泣きそうな表情になる。
ぎゅっ、と。
壊れるぐらいの勢いで服部を抱き締める。
「……戻ってきたら、お前が倒れてっから……心臓が止まるかと思った……この、バカ……」
抱き締められながら、先程自分を抱き締めてくれた、未来の工藤とそれが重なった気がして。
ああそうか、と服部は思う。
「工藤」
片腕を伸ばして、覗き込むような角度の相手の頭に手をかける。
「大丈夫や。心配さして、ごめんな」
そのまま引き寄せて、そっと重ねる唇。
初めての、服部からのキス。
工藤の瞳が、丸くなったのが可笑しくて。
思わず顔を背けて吹き出す。
キスは、一瞬で終わってしまった。
「おま……短時間で表情変わり過ぎやろ……」
「いや、お前こそ。オレが居なくなった後、一体何が……」
「ヒミツ」
に、と服部が笑う。
それに、ムッとした表情を工藤が向ける。
「お前な。そーゆー事言ってると、イヤだっつってもヤっちまうからな。上は絶対に譲らねーから。抱かれんのがお前だから。泣いても止めてやんねーから」
服部の額を小突いて。
返った予想外の表情に、工藤は一瞬固まってしまった。
普段なら呆れている筈のその顔が、本当にいい笑顔だったものだから。
「好きにしたらええのと違う?恋人同士やし」
言って、ケラケラと服部が笑う。
ついさっきまで。
キスどころか、抱き締めるのでさえ嫌がる素振りを見せていた。
これが、同一人物か?
思ったけど。
服部の『好き』を、やっと信用できた気がして。
工藤も、嬉しくて思わず笑った。
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