日常

「早よ起きろや。いつまで寝てんねん」
「……あと5分」
「さっきもおなし事言うとったで。とっくに5分以上過ぎとるわ!」

 言って、無理矢理布団を剥ぎ取ると。赤子みたいに丸まって、それでもまだ粘ろうとする新一の姿に。平次は溜息を吐き、向けられている尻を蹴る。

「今日、依頼人に会うのやろ? 遅刻しても知らんで、ほんま」
「分かってるって。起きる。起きりゃいいんだろ」
「なんで逆切れてんねん。アホか」

 のろのろ起き上がり、ベッドに座ったまま伸びをして。そのままでする大きな欠伸とボサボサの髪。

「ったく……この姿。記者にも見してやりたいわ」

 テレビや雑誌では、常に格好をつけているこの男。その反動かは知らないが、家では相当だらしない。その事実を知っているのは、今ここに居る平次と、幼馴染みの毛利蘭。後は新一の両親ぐらいなものだろう。
 いつか、取材で新一について聞かれたら思い切り暴露してやろう。平次は常々そう思っている。

「服部」
「なんや」

 部屋を出ようと向けた背中に、声がかかって振り返る。と。

「……」

 平次に向かい、伸ばして広げられた両腕。その間にある腑抜けた顔。その光景に、一瞬平次の思考が停止する。
 だが、すぐに動き出した思考に従い。平次はそのまままた向きを変え、ドアノブに手をかけた。

「おい。無視かよ」
「付き合うてられん」

 言って廊下に出て、閉められる扉。残された新一は、小さく舌打ちをしてベッドを降りる。ぽりぽりと後頭部を掻きながら。窓際に立ち浴びる朝日。次第にすっきりとする頭。

「よし。着替えて今日も1日頑張るかー!」

 交わされる会話と、伸ばした腕に納まってくれるかくれないかの差はあるものの。大体がこんな始まり。いつも通りの2人の朝。
 こんな事を、2人で暮らすようになってから、ずっと飽きる事無く繰り返している。

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