You have been the only one for me.
どんなに長く付き合ったとしても、相手の全てを知るなんて事はできない。だからいつだって、追い掛け、求めて走ってる。
終わりなんてない道を。
「あ、あっこの店のお菓子にしよ。人気らしいし」
「人気だから美味いとは限らねーぞ」
「うまなかったら工藤に文句言うからええ」
「なんだそりゃ。オレのせいじゃねーだろ」
理不尽な事を言われ、ぶつぶつ言いながらその店に向かう。ショーケースに並ぶのは、色とりどりのマカロン。
「……マカロン」
「嫌いやった?」
「いや……どれがいいんだよ」
「えーと」
真剣に選ぶ横顔を見ながら、思わず小さく吹き出すと。
「なんやねん」
服部が横目に、少し不機嫌そうに言う。
「なんでもねーよ。さっさと選べ」
笑ったまま、指でショーケースを指すと。表情は納得していないようだけど、服部がまたショーケースに視線を戻し、いくつかのマカロンを選んだ。
服部の選んだマカロンを購入して、家へと向かう道。紙袋に入れて渡されたそれを覗き込みながら。
「さっき。なんで笑っとったんや」
まだ先程の事を気にしていたらしい服部が訊いてくる。
「お前、知らないのかよ?」
「なにを」
「マシュマロは嫌い。クッキーは友達。キャンディーが好き。じゃ、マカロンは?」
「は?」
先の3つは結構前からあるけど、マカロンは追加されてまだ新しい。だから、服部は本当に分からないようだ。片眉を下げ、意味が分からないと言った顔をオレに向けている。
「お前の事だよ。だから、選んだのがマカロンだったのが面白かっただけ」
「オレの事?なんやそれ?」
益々、分からないと言う色を深めて。必死に意味を考えている服部の、髪を片手でくしゃりと撫でて。
「マカロンの意味は、『特別な人』だ」
言うと。服部は髪を直そうと両手を頭に当てたカッコのままで固まった。
「な?お前の事だろ?」
にこり笑み。もう一度、くしゃくしゃと髪を撫でてから歩き出した。その後ろを。そんなの知らんとか、文句を言いながら服部が追い掛けて来る。
好きだけじゃ足りないから、お返しはキャンディーじゃ務まらない。愛しているは、いつだって言葉と態度で伝えてる。だから、意味なんて無しで好きなモノをと思ってたけど。自ら意味のあるモノを選ぶとか、才能としか思えない。
「来年はオレがマカロン贈る」
それ、仕返しのつもりで言ってんのか?
悔しそうな顔でそう言ってるのがおかしくて。やっぱ天賦の才能だと思った。天然の、オレを惚れさせる才能。
「待ってるよ」
来年も、再来年も。その先もずっと。『特別な人』で居られるように走り続けよう。どんな仕草も、表情も見逃さないように。全てを記憶に刻めるように。
そう誓った。これは、いつかのホワイトデーの話。
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