You have been the only one for me.

 ホワイトデーのお返しは、種類によって意味がある。キャンディーなら『あなたが好きです』で、『友達だと思っています』がクッキー。そして、『あなたが嫌いです』がマシュマロ。世の中の男が、どれだけその意味を知っているかは知らないが、一般的にはそうらしい。
 で。オレがそれを知っているんだから、当然ながら服部は知っている筈で。

「……なんだこれ」
「見て分かるやろ。マシュマロ」

 ホワイトデー当日の朝。リビングのテーブルに置かれたガラスの器に、山盛りになっているそれを見た瞬間。間接的に嫌いと言われて落ち込むより、嫉妬してくれていた事に内心喜んだオレはやっぱり病気だと思う。

「なんでお前がマシュマロ?」
「別に、ホワイトデーのお返しちゃうし。ただ食いたいから置いただけや」
「あ、そう」

 お返しと言う言葉が出た時点で、意味を知ってて置いたのはやはり確定で。女の子にあげるクッキーを買っていたオレが、本当は面白くなかったと思っていたと言う事になる。
 マシュマロを見ながらニヤニヤしているオレに、服部が不審の色の瞳を向けた。

「何ニヤけとんねん、気色悪い」
「ふーん。オレが嫌い、ねぇ?へぇ……」
「だから、お返しちゃうねんから、別に意味なんか」
「だよな」

 ムキになって反論しようとした言葉を遮ると、服部が悔しそうな表情をしてふいっと顔を背ける。
 オレに意味を読まれるなんて分かっていた筈なのに、実際に読まれたら恥ずかしくなったのかなんなのか。最近あまり見なくなっていた行動なだけに、なんだかやたらか可愛く映るのは。おそらくオレの贔屓目なんだろう。

「美味いのか?これ」
「さあな」
「食いたくて置いたのに食ってねーのかよ」
「うるさいっ。置いたばっかでお前が来たからや」
「あー、はいはい」

 ぶすっとした表情でマシュマロを摘んで。食べようとした手を掴んで止めて。

「食わせて」

 あーん、と口を開けてみせると。

「……自分で食えや」

 言いながらも。摘んでいたマシュマロを、そのままオレの口に入れてくれる。
 しゅわしゅわと口内で溶けるマシュマロも。言われるまま行動してくれる服部も。

「甘いな……」

 ホント、そう思う。まぁ、甘いのはオレも一緒なんだけど。

「マシュマロやからな」

 また一つ。マシュマロを摘んで、服部が自分の口にそれを放る。オレの言葉の意味を、全く理解していないらしいその様子に。

「ばーか。お前が、だよ」

 言って、笑った。

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