願い
ふわり、と。
工藤の匂いが身体を包む。
「……放っとけ、ゆうたやろ……」
手に入れた、安らげる場所。
同時に知った、自分の弱さ。
「放っておけねーよ。お前が、こんなに辛そうなのに」
ぎゅっと、抱き締める腕が強くなる。
温かい、腕。
そして匂い。
「大丈夫」
静かな工藤の声。
「お前の未来は、幸せだから」
気付けば、悔し涙も止まって。
「オレが保障する」
少しだけ、胸の痛みも落ち着いていた。
悔しさは消えていない筈なのに。
きっと、諦められたから。
それもある。
けれど……。
「……やっぱ、アカンわオレ。どんな足掻いても手遅れや……もう、こんな……」
振り向き、言葉を続けようとして。
くらり。
あの時と、同じ。
視界が揺れて、工藤の顔が霞む。
「平次」
呼ばれる声も、遠くなる。
そして、意識も。
だって、僕は。
こんなにも、君を愛してる。
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