Way to love
あの後、どこかを眺めたまま、暫く何かを考えているようだった服部だったが。
「取り合えず、ちゃっちゃと終らせや」
言って部屋を出てったきり、それ以降はオレの部屋に戻って来る事はなくて。なんとか早めに終らせてリビングへ戻ると。
「終ったか。したらあとは晩飯の材料買って帰ろ」
コートの袖に腕を通しながら、そう言う表情はいつもの服部で。さっきは何を考えていたのか、さっぱり読めない。
まあいいか。思いながら、そう言えば今日まさにバレンタインだよな、と気付いて。
「チョコは?」
訊いてみるが。
「誰がバレンタイン当日にチョコなんぞ買うか。恥ずかしい思いは、人生で1回あったら十分や」
そうだろうな、と。予想通りの返答が返って来る。だから、それ自体は全く気にしなかった。
けど。
「用意はしてんだよな?」
「いや、してへんで」
「……」
こちらは予想外。
なんだかんだで毎年、市販のから手作りまで、チョコは用意してくれていた。それが、今年は用意していない……?
思わず、立ったまま動けないでいると。靴を履き終え、立ち上がって振り向いた服部が。
「何固まってんねん。今年はケーキ。こないだ、ガッコの帰りにごっつ美味いレモンパイある店見っけてん。早よ行かんと店閉まってまう。チョコちゃうけど、好きやろ?レモンパイ」
言って向けた笑顔が眩しくて。思わず抱きついたら、鬱陶いと押し退けられた。
だけど。押し退けてる本人の、顔は笑んだままだった。
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