Way to love
「掃除進んどるかー?って……全然やな」
声に振り返ると、呆れたように部屋を見渡す服部の姿が映った。
「いや、なんか……懐かしいモノ見つけちまって」
「そんなん終ってからゆっくり見たらええやん。いちいち手ぇ止めたらキリないで」
言いながら横に来ると、しゃがんでオレの手の中にあるモノを見る。
「なんやそれ。チョコの包み紙?」
「覚えてねーの?」
「何を?」
上げた視線がオレと合う。その瞳から、本気で分かってないのが伝わって。酷く、がっかりした気持ちになって肩を落とした。
「コレ、お前がオレに初めてくれたバレンタインのチョコなんだけど……」
「……へ」
間抜けな声を出して。オレの目と包み紙とを交互に見ると。
「初めてん時は、もっとちゃんとしたの贈ったと思うけど?めっちゃ恥ずかしい思いして買うたヤツ」
言って片眉を落とす。
確かに、付き合って初めて貰ったチョコはぞの恥ずかしいチョコだよ、合ってるよ。コレは付き合うよりずっと前に貰ったヤツだ。覚えてないとか、実はホントにあん時はなんとも思ってなかったのかな。
思ったら、大事に包み紙とってた過去のオレが可哀相過ぎて軽く泣けそうだ。
「世界に一つだけの貴重なチョコとか言ってたくせに覚えてねーし。何なんだよ」
一瞬、もうこの機会に捨ててやろうか、と思った。けど、握り潰そうとして、それはできなかった。
「友チョコなんて要らなかったけど。そうだとしても本当は、ちょっと嬉しかったのに」
溜息混じりにぶつぶつ言いながら、包み紙を元あった箱の底に戻し。他のモノを積み重ねて、蓋を閉じようとした、その時。
「あー!」
服部が突然大声を出すものだから、蓋がオレの手から離れて床へと落ちた。
「な、何だよ。ビックリすんだろ」
「世界に一つだけのチョコ!言った!思い出したっ」
オレの両肩を掴んで、服部が間近でこくこく頷く。
「お前がまだコナンやった時やろ?確かに言うたし、やったわ。丁度ポケットに入っとったから」
「……丁度ポケットにって……」
「なんでそんなんとっとくねん。捨てるやろ、普通」
オレの思い出をぶち壊す事を言いながら、服部が腕を組みながらやれやれと息を吐いた。
「いや……オレもとってたと思ってなくて……ってか、お前酷過ぎねぇ?」
「ほんまの事や。しゃーない」
腕は組んだまま、うんうんと頷く姿に溜息しか出てこない。今度こそ蓋を閉めて、元々あった引き出しの中にしまうと。
「それ、またとっとくんか」
服部が訊いてきたから、言葉ではなく頷きで返すと。
「ふーん」
言いながら、どこかを眺めて何かを思っているようだった。
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