Way to love
「何だよ、コレ」
手の平に乗ったそれを見下ろす。瞳に浮かべる訝しげな色と、その色を乗せて発する声。
「見て分からんか?チョコやチョコ」
「いや、それは分かる。そうじゃなくて……――」
「今日バレンタインやから、友チョコ」
「要らねぇよ」
つき返そうとする手を、自分のそれでやんわりと止めて。
「ええから貰っとき。世界に一つだけの貴重なチョコやぞ」
言って、服部がにっと悪戯っぽく笑った。
「10円のチョコの何が貴重なんだよ」
値段が問題なワケではないが、思いっきり不満と呆れを込めた声色で返して。返品に失敗した手の平の中のチョコに視線を落とし、小さく漏れる息。
「オレが友チョコなんぞ渡したの、人生初やぞ。な?貴重やろ」
「何が『な?』だよ。意味分かんねー」
やれやれと言った口調で呟きながら、包み紙を開け、一口サイズのチョコを口へ放り込む。貴重らしいチョコは、小さいくせにやたら甘い。
その様子を覗き込むように見ている服部の顔が満足気で、何故か酷く腹が立ったから。
「何へらへらした顔で見てんだよっ」
「いたっ」
入れた蹴り。身長が低いモンだから、それは思い切り服部の脛に当たって。痛がってる服部に、ごめん、とは思ったものの。
「友チョコなんて、要らねぇんだよ」
聞こえないように呟いた言葉は本心。服部の口から、友達だとか、親友だとか。そう告げられる度にへこむのを、たぶんコイツは分かってないから。
その痛みはオレの心の痛みだ、体で味わえ。
心の中で思いながら、ぺしり、服部の後頭部を追い討ちで軽く叩いた。
[ 19/289 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]