Holy Night

 服部に、こんな思いを持ったのは。何も今日が初めてじゃない。
 何気ない笑顔に。グラスで水を飲む姿に。眠る横顔に。
 ふとした瞬間に、何度だって湧き上がった思い。それを、ずっと無視してきた。

「つーか、悪魔の呪いにかかってたのはお前じゃねーのか?」
「なんでやねん。先にオレんこと放さへんかったのお前やろ」
「抱き締めはしたけど、キスまではしてねーぞ」
「やかましい」

 照れて、頬を膨らましてそっぽを向く。こんな姿だって、愛おしい。
 そう、愛おしい。
 認めるのが怖かった想い。ぶつけるのが怖かった感情。

「親友だと思ってたのに……」
「オレのセリフをパクんなや」

 服部の隣にはいつも彼女が居た。オレの隣に蘭が居るように。
 それが自然で、当たり前だったから。それ以外の道を進んではいけないと思ってた。

「なあ、なんでキスしたんだ?」
「は?」
「なんで?」

 火の消えた蝋燭を手に、オレを真っ直ぐ見返す。その表情は無表情に見えて、実は相当困ってる。

「……。お前がして欲しそーな顔しとったから」
「そんな顔してねーだろ。してーな、とは思ってたけど」
「変態」
「オレが変態なら、したお前も変態だな」
「ぐっ……」

 悔しそうな顔をしながら、蝋燭を一箇所にまとめると。

「風呂入って寝る!」

 言ってリビングを出ようとする。その肩を掴んで引き止めて。

「なあ、どうせ堕ちるなら、とことんまで堕ちてみる?イブだし」

 耳元で囁くように言ったら。

「一人で地獄にでも堕ちてけ!」

 振り返ってそう怒鳴った顔は、耳まで赤かく。さっきは自分からキスしたくせに。ホント分かんねーヤツだな。思ったら、また笑えた。

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