Holy Night
暗闇も、慣れてくるとうっすらとだけど世界が見える。しかも、雪が積もってるから、窓にかかったカーテンがぼんやりと光って意外と明るい。
もう、どれくらいこうしてるのかな。
「なあ。ええ加減、放そうとか思わん?」
「思わない。この方が温かい」
「そらそうやろ。せやけどな……」
腕が痺れる。耳元で服部が溜息混じりに呟いた。
「痺れない体勢になればいいんじゃね?逆向いて、オレの腕の中に納まるとか」
「いや、お前がオレを放したらそんで済む話や」
「だから、放さねえっつっただろ」
「あんなぁ……」
謝って、オレを覗きこんでいた服部を抱き締めた。そのままの姿勢だから、服部は自分を自分の腕で支えている状態でずっと居る。
「クリスマス嫌いになれそうや。トラウマやトラウマ」
「こんなモンでトラウマかよ」
抱き締めていた腕を緩める。けれど、服部はそのまま離れることはしなかった。
「親友や思っとったのになぁ」
「クリスマスみたいに、オレも嫌いになれそうか?」
放さないと言った腕を放して。少し離れて、口元に笑みを浮べて覗き込むように見る。服部は暫く黙ってオレを見ていた。
ゆっくりと行われる瞬き。漏れる小さな息。
「なれたら楽やろな」
近付いて。軽く触れて、重なる唇。
暗闇だから、はっきりとは見えやしないけど。二人とも、自然に瞳は閉じてた。と、思う。
そして、暫く重なっていた唇が離れる頃に。
「あ。ついた」
キスで解ける魔法みたいに。暗闇が、一気に光の世界に変わった。
「悪魔の呪いは解けたか、お姫さん」
服部がオレの顔を覗く。
「誰が姫だ。王子の間違いだろ」
ぺしり、軽く頭を叩くと。
「お。いつもの工藤や」
言って、服部が笑った。
そこに。さっきまでの戸惑いの色は、もう全くなくなっていた。
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