Holy Night

 暗闇も、慣れてくるとうっすらとだけど世界が見える。しかも、雪が積もってるから、窓にかかったカーテンがぼんやりと光って意外と明るい。
 もう、どれくらいこうしてるのかな。

「なあ。ええ加減、放そうとか思わん?」
「思わない。この方が温かい」
「そらそうやろ。せやけどな……」

 腕が痺れる。耳元で服部が溜息混じりに呟いた。

「痺れない体勢になればいいんじゃね?逆向いて、オレの腕の中に納まるとか」
「いや、お前がオレを放したらそんで済む話や」
「だから、放さねえっつっただろ」
「あんなぁ……」

 謝って、オレを覗きこんでいた服部を抱き締めた。そのままの姿勢だから、服部は自分を自分の腕で支えている状態でずっと居る。

「クリスマス嫌いになれそうや。トラウマやトラウマ」
「こんなモンでトラウマかよ」

 抱き締めていた腕を緩める。けれど、服部はそのまま離れることはしなかった。

「親友や思っとったのになぁ」
「クリスマスみたいに、オレも嫌いになれそうか?」

 放さないと言った腕を放して。少し離れて、口元に笑みを浮べて覗き込むように見る。服部は暫く黙ってオレを見ていた。
 ゆっくりと行われる瞬き。漏れる小さな息。

「なれたら楽やろな」

 近付いて。軽く触れて、重なる唇。
 暗闇だから、はっきりとは見えやしないけど。二人とも、自然に瞳は閉じてた。と、思う。
 そして、暫く重なっていた唇が離れる頃に。

「あ。ついた」

 キスで解ける魔法みたいに。暗闇が、一気に光の世界に変わった。

「悪魔の呪いは解けたか、お姫さん」

 服部がオレの顔を覗く。

「誰が姫だ。王子の間違いだろ」

 ぺしり、軽く頭を叩くと。

「お。いつもの工藤や」

 言って、服部が笑った。
 そこに。さっきまでの戸惑いの色は、もう全くなくなっていた。

[ 30/289 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -