My heart is pounding.
トキメキなんてモノは。恋愛初期にのみ存在するもので、長く一緒に居れば居る程。相手を知れば知る程に薄れて、いつかは消えてしまうモノ。
そんな風に思ってた。
「なあ、服部」
「何や」
カップを手に取り、口に運びながら。少し上目使いに見る瞳。
もう視線が合わない、なんて事はなくなった。
「はい、あーん」
オムライスをスプーンですくって目の前に差し出すと。危うく、服部が飲みかけたスープを思い切りふきそうになる。
「あ、アホかおどれはっ」
「自分がオレにやった事じゃねーか」
「……っ」
ふきはしなかったものの、口の脇を少し伝ったスープを手の甲で拭いながら。服部が恨めしそうにオレを見る。
「オレが愛を込めて作ったオムライスだぜ?ほら」
「要らんって!オレの目の前にあるし」
「じゃ、お互いに一口って事で」
「はあ?!」
スプーンを向けたまま、視線を置かれたままの服部のそれに注いで。早く、と急かすように視線を戻す。
「……ったく。何が楽しいんや」
渋々。本気で渋々、と言った顔で。服部がスプーンを手に取り、オムライスをすくう。
「ほれ」
差し出されるオムライスの乗ったスプーン。瞳で笑いかけると、やれやれと言った顔をした後。ふ、と小さく服部が笑むのを見て。
互いのスプーンのオムライスを、それぞれの口に含む。
「幸せの味がするだろ?」
料理はいまだ得意な方じゃない。服部の方が今は料理上手だ。だけど、オムライスだけは服部より上手い自信がある。
ずっと見ていても、視線は逸らされない。けど。
「工藤の味がする」
小さく呟かれる言葉から、うつってしまいそうなドキドキが伝わる。
二人が、二人である限り。トキメキは薄れない。そう知った。
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