My heart is pounding.
そうだ。あの時からだ。
あの時から、服部はオレと瞳を合わせてくれなくなった。それと同時に、身体が触れそうになると、離すようになった。
「……まさかと思うけど服部」
「何やねん。またアホな事ゆうなよ」
いつもの服部が垣間見えた瞬間、外された手に視線を落としたままで続ける。
「お前。……オレと瞳が合うのが恥ずかしい、とか。顔が近いと照れる、とか。そんな事言わねーよな?」
オレの問いに、返答がない。と言う事は……――。
上げた視線の先。顕かに動揺し、顔の赤い服部が居た。
「嘘だろ?!何で今更!」
「そんなんオレが知るかっ」
瞳が合うと、また逸らされて。横を向いてしまった服部を、信じられない、と言った気持ちで見る。
付き合い始めたのは、昨日今日の話じゃない。付き合い始めたばかりとかならまだしも。付き合うどころか、今じゃ一緒に住んでるってのに。キスだってそれ以上だって、数え切れないくらいしといて、ホントになんで?!
「オレかてよう分からへんねん!思いっ切り意識してもうたんやから、しゃーないやろっ」
「はあ?!何だそれ。今までオレの事意識した事ねーって事かよ!」
それもどうなんだ。
告った時とか。初めてキスした時とか。アレな時とか。全く意識して無かったって事か?
いや、待て。それは無いだろ。恥ずかしがってる姿は何度も見た事がある。意識してなかったらそんな反応する筈がねえ。っつー事は?
「違うボケっ。オレが……。オレが、自分の気持ちを意識してもうたって言うてんねん」
「オレの事好きだって?」
「それもちゃう」
オレ自身を意識したワケではなく。服部の中にある、オレへの気持ちを意識したワケでもない。
と、なると。残るのは。
「ああ、分かった。アレだろ。いっつもオレにエロのスケベの何の言ってるけど、実はお前自身もオレとそーゆー事したいし、されたいし。オレと居ると、頭ん中オレでいっぱい的なこ」
「せやから違うわ、あほんだらっ」
話してる途中で、頭にゲンコツが飛んできて言葉か切れた。
痛い。これは久しぶりに本気でやられた。たんこぶできるかも。
「……ひっでぇな。この1週間、寂しい思いさせられた上にゲンコツとか」
殴られた所を摩りながら、ちらり見上げると。引っ込みがつかなくなったみたいな顔で、服部がオレを見ていた。
「なあ、これ。すっげー痛いんだけど」
「せやから何や」
ずい、と服部の方へ身を乗り出す。
「キスしてくれたら痛みひくかも」
「どないな理屈やそれ」
「物語では、キスは最高の魔法だろ?」
「また魔法か。オレは魔法使いちゃうねんけど」
少し、呆れたような声色と表情。だけど。一つ、吐いた息と共にそれは消えて。
ちゅ、と。触れた程度の唇。いつものキスよりも軽い筈のそれが。
「……あかん。動悸で死ぬ」
なんて服部が言ったからか、何なのか。今までのどのキスよりもドキドキした。
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