願い
目覚めると、見慣れない天井。
ここはどこだ、と見渡してみる。
けれど、見覚えのある物はひとつも無い。
「気がついたのか?」
開いた扉から誰かが入ってきた。
それは、よく知っている顔。
「工藤」
そう。
その顔は工藤新一。
けれど……。
「うわ、懐かしいな、その呼び方!」
言って笑うその人の顔は、知っているものよりもずっと大人びていて。
声も、少しだけ低くなっているような気がした。
「……懐かしい?」
今、彼は確かにそう言った。
であるとすれば。
大人びているのではなく……。
「まさかとは思ったけど。やっぱどー見てもお前、昔の平次だよな?見た目からすると……――高校生ん時?」
まじまじと自分を見てそんな事を言う相手。
その人の瞳から、服部は見開いた目を離せなかった。
「……え。これ、夢……?」
彼の目は、本当に懐かしい者を見る瞳。
「残念。夢じゃねーぜ?なんなら、抓ってやってもいいけど」
片手を服部の頬に当て、抓ろうとする。
その手を掴んで止めさせて。
「お前……工藤……今、歳なんぼ?」
瞬きもせず、工藤の瞳を見つめて服部が問う。
それに、瞳で笑んで。
「28」
工藤がさらりと答えた。
10年後の工藤新一。
それが、突然目の前に居る。
これが夢ではないのなら、何の意味をこめた現実なのか?
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