願い
例えば5年後、10年後。
君の隣に、僕が居るとは限らない。
だから、だよ。
「……だから。何でそんな嫌がるワケ?オレの事好きじゃねーのかよ」
背後から工藤の苛立つ声がする。
このセリフ、聞くの何度目や。
服部は小さく息を吐いて、視線を雑誌へと戻した。
その都度、『好きや』と答えても。
工藤は全く信用しない。
だから、もう答える事も面倒で。
だからと言って。
彼の求める、『行動で示す』と言うのもできない自分。
もはや、無視する選択肢しか選べなかった。
「何でオレ、こんなヤツ好きなんだろ……」
自嘲気味に呟いて。
ゆっくりと立ち上がった工藤は、そのままどこかへ去ってゆく。
恐らくは、また書斎に篭りに行ったのだろう。
「……そら、こっちのセリフや、っちゅーねん……」
ペラペラと捲ってはいたが、全く興味の無い雑誌を閉じて。
彼が居なくなった空間を見つめて溜息を吐く。
「コーヒーでも淹れて来よ」
立ち上がって、キッチンに向って数歩。
歩んだ所で、くらりと視界が揺れる感覚。
「え。眩暈?……なんや、これ……。気持ち悪………」
片手で壁を押さえ、もう片方で顔を覆う。
がくり、落ちる膝。
そこから、意識が無い。
怖いんだ。
行為そのものが、ではなくて。
これから先の自分自身が。
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