meet again after a long time

 服部の話では。

 昨日、二人で海水浴に出掛けたオレは、帰ってから高熱を出した。だが、うちには生憎と風邪薬も解熱剤も無くて。いつも博士のところから貰っている。その言葉を頼りに、服部は博士の所に行って解熱剤を貰った。
 戻って、その薬をオレ飲ませて。なんとか2階の部屋までオレを運んで寝かせて。シートを額に貼って、自分も部屋に戻った。
 そして朝目覚めたら。

「工藤新一が、江戸川コナンになっていた、と」

 腕を組みながら話を聞いて、そのままの姿勢で問うオレに。服部が無言のまま一つ頷いた。

「有り得ねー。誰が信じるんだよ、そんな話。吐くならもっとまともな嘘吐けよ」

 思いっ切り信用していない声を向けると。

「嘘ちゃうで?!ジイさんに聞いてみたらええやないか!お前は、昨晩まで確かに工藤新一やったんや!」

 真剣な顔で返してくる。その表情は、実際嘘を吐いているようには見えないし、確かに博士に確認したらすぐに事実は判明する。

「ってもなぁ……」

 恐らく本当の事なんだろうけど。その工藤新一であった時の記憶がないオレには、どうも実感が無いと言うか、なんと言うか……――。

 そう。
 オレには、昨日まで居たらしい工藤新一の記憶が無いんだ。

「ホンマの事やのに……」

 膝の上の両手をぎゅっと握り締め、服部が小さな声で呟く。表情は、なんだか複雑すぎて、何を思っているのかは読み取れない。
 ただ、何だか可哀相な気はした。

「……。わーったよ、オレは昨日まで工藤新一の姿してた。そうだな?」

 問いに頷く頭。
 取り敢えず、オレが元の身体で過ごしてたって事は信じるとして。そこで最大の謎がある。

「じゃあ。なんでオレは、お前と二人きりで海水浴なんて行ってたんだ?」
「……お前、ホンマに工藤やった時の記憶が無いんか」
「ねーよ」

 答えに、服部の表情が一瞬固まった。けど、それはホント一瞬で。

「そうか」

 そう呟いた時には、すっかりいつもの表情に戻っていた。だけど。

「夏の海なんて、女連れやない方が色々都合ええやろ?そんだけや」

 なんだかちょっとだけ、寂しそうに見えた……のは気のせいなんだろうか。

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