はじまりはいつも雨

「なんで着いて来てんねん」
「暇だから」
「オレはお前の暇つぶしの玩具ちゃうぞ」


 放課後。
 返却カードに名前を書いて、いつものように本を返却棚へと戻して。推理小説の置かれた棚へと歩く、その後ろを新一も着いてくる。


「もう全部読んじまったんじゃねーか?」
「あと3つで終り」
「じゃ、今回で取り敢えずココに来るのは暫くねえんだ」
「そやな……あ、あった」


 目的の本を見つけて、それへと手を伸ばす。


「そりゃ残念だな」
「あ?なにがや?」
「こーゆー、誰も居なくて、監視カメラもないような場所って。屋上以外じゃ貴重だからさ」
「は?」


 伸ばした手が本に触れ、引き出した。それと同時に頬に感じる、何かの当たる感触。
 それが唇だ、と。認識したのが早いのか、本が棚から落ちたのが早いのか。新一の行為に反応するより先に、落ちた本を追ってしゃがみ込む。


「ココは図書室や、図書室っ。図書室は本を読むトコで、そーゆーことする場所とちゃうっ」


 本を拾って抱え込むと、響いてくる鼓動が早い。


「あーあ。落としたら本が可哀相だって、前にも言ったろ」
「誰のせい……っ」


 先程、頬に触れたところが唇を塞いで。すぐに離れるのを、見開かれた大きな瞳が、瞬きもせずにじっと見ていた。


「あんまり騒ぐと口塞ぐっても前に言ったぞ。学習能力ゼロかよ、お前。……はは、おもしれー顔」


 わしわし、と髪を乱暴に撫でる手。動きを止めて、平次を見る視線は、あの日のものと同じ。熱くて、心がざわつく。


「人で遊ぶな。悪趣味」
「遊んでねーよ。お前は玩具じゃねえだろ?」
「感情のある、人間や」


 見つめられると気恥ずかしい。好きだよ、と。直球で伝えてくる瞳。


「じゃ、イヤだったら態度で示せるよな」
「当たり前や」
「そ」


 瞳が思いを、感情を伝えられるなら。自分のそれも同じで、感じる全てを伝えてしまう。至近距離から見抜かれるのは恥ずかしくて耐えられない。だから、平次はぎゅっと目を瞑った。新一が閉じるより先に。

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