はじまりはいつも雨
図書室の幽霊の噂。
1.幽霊は男子生徒である
2.肌は白く、髪は茶色と色素が薄い
3.声を聞いた者は居ない
4.話たら死ぬ
平次から新一の事を聞いた友人は、新一は図書室の幽霊ではないかと言った。話をするのは危険だとか。雨の日はもう図書室に行くなとか。色々と言っていたが……――。
工藤が幽霊で、噂がホンマなら。
オレ、もう死んでるやん。
「……どうかしたのか?」
「え?なにが?」
「いや、いきなり変な顔してっから」
今日もやはり雨。まあ、梅雨なのだから、雨の日が多いのは当たり前。だから、特別、新一が居るから雨と言うことではないはずだ。
今日は、なんとなく図書室で本を読んでみようと思った。そして、例の如く新一はやはり傍に居る。
「なあ、工藤は幽霊とかそんなん信じる方?」
「はあ?幽霊?お前は信じてんの?」
「信じるワケないやんか」
「だったら訊くなよ」
ケラケラと笑っているその姿からは、とてもではないが、幽霊なんてものは想像できない。
確かに男子生徒だし、色素も薄い。けれど物凄くお喋りで、声を聞かないで居ることも、話さないで居ることも不可能に近い。これが、噂の幽霊のはずがない。
「いやな、工藤の事、クラス連れに話たんやんか。そしたらな、そら図書室の幽霊やー、ゆうてな」
「図書室の幽霊?」
「うん。うちのガッコの七不思議のひとつでそんなんがあって。見た、ゆうヤツとかも居ったりしてやな。話しかけてもなんも答えんと姿消したとか……」
「……」
平次の話を聞きながら、新一がどこかを眺めるように視線を外し、顎に手をあてる。
「それ。間違いなくオレだ」
「は?そうなん?」
「そうか。オレ、幽霊だったのか」
「……なに言うてんねん」
真顔で呟く新一を、呆れたような視線で見ると。暫く、真顔のまま平次と瞳を合わせていたが。
「図書室の幽霊ね。確かに。幽霊っちゃ幽霊か」
吹き出すと、声を殺しながらに笑い、新一は肩を震わした。
「なに?どう言う事?」
新一の言っていることがさっぱり分からず。瞬きをする平次の頭の中に、『?』が大量に浮かぶ。
「前にさ。服部お前、転入生の話、聞いたことねえっつってたろ?」
「ん?ああ……」
「聞いたことなくて当然なんだよ。オレ、転入生じゃねーから」
「え?」
そう言えば。これまで会った彼とは一箇所、違う所がある。今日の彼は私服ではない。自分と同じ制服を着ている。
転入生ではないのであれば、なぜ同じ制服を着ているのか。その答えは、元からこの学校の生徒だからに他ならない。
「……あ。お前、もしかして……」
新一がに、と笑って。
「な?確かに、幽霊と言えば幽霊。だろ?」
両手で頬杖をつき、平次を見上げるように見る瞳。それは、まるで悪戯を見つけてもらった子供のそれのよう。楽しそうに、キラキラしていた。
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