はじまりはいつも雨

 図書室の幽霊が現れるのには条件がある。


 1.放課後であること
 2.自分のほかに誰も居ないこと
 3.雨が降っていること






「よう。また会ったな、色黒君」


 前回借りた本を返しに来た。そしたら、また、彼が居た。
 そして今日も、雨が降っている。


「誰が色黒君や。服部平次って、ちゃんとした名前があるわ」
「時代劇みたいな名前だよな」


 カードを一枚手に取り、マジマジとその名を眺めて呟く男から、少し乱暴にそのカードを奪い取って。


「やかましい」


 全ての返却カードを書き終えると、無視するように脇を通り過ぎ、本棚のある方へと向かった。
 その後ろを、何故か彼は着いて来る。


「今日は何借りるんだ?」
「なんだってええやろ」
「オレがお薦めのヤツ教えてやろうか」
「要らん」


 まだ読んでいない本の、解説を眺めている間も、ずっと彼は隣で話しかけてくる。しかも、手にする本、手にする本。全部説明をしてくると言うことは、彼はそれらの本を全て読んでいるということで。その知識量にまず驚嘆した。


「……ジブン、どんだけ本読んでんねん……」


 確かに、高校の図書室にある本の数なんて決して多いものではない。だがしかし。


「そうだなー……ここにある本の数よりは全然読んでるだろうなー」


 言って見渡す姿に、開いた口が塞がらない。


「オレの父さん、やたら本持ってるからさ。小さい頃から読んでたし」


 にこり笑むその顔に。どこの富豪や、と平次はツッコミたかったが声が出なかった。

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