Many happy returns of the day.
「はい」
にこにこと、嬉しそうなまま。鞄から取り出したそれをオレの手に置く。
「何これ」
「開けてみ」
手に置かれた、ラッピングの施された箱に視線を落とす。白の包み紙にブルーのリボン。リボンに書かれてる文字はよく知っている。オレが好んで買ってるブランドの名前だ。
オレを映す瞳が、早く開けろと言っているようで。リボンを解き、丁寧に包み紙を開く。現れた箱、その蓋を開いて。
「腕時計?」
入っていたモノの名前を呟いたら、いつかの服部のセリフが脳裏に浮かんだ。
『欲しいモンがあんねん。けど、生活費から出すには値ぇがはるから、バイトして稼いで買おう思って』
……急にバイトを始めた理由はコレか。確かに安い買い物じゃねえな。
バンドに指を通して、箱から腕時計を取り出して眺める。
「誕生日おめでとさん」
言われて、時計の針が指す時刻と、表示されている数字を見れば。確かに今日は5月4日。オレの誕生日だ。
……あん時、一瞬でも浮気とか疑ってごめんな。
「オレが居らんと、すぐいじけるし、飯も一人で食わへんし。工藤と同じ時間、オレも一緒に過ごしてんでーって。そう思えるかなって。時間刻むモンにしてみた」
辛いとか、そう言うんじゃなくて。嬉しくて。愛し過ぎて胸が苦しい。
ぎゅっと腕時計を握る。
「コレな。暗いから見えへんと思けど、裏にメッセージ彫ってあんねん。せやからコレ、世界に1個しかない腕時計なんやで」
説明を終えても。腕時計を握って俯いたまま。黙ってしまったオレに不安になったのか。
「……工藤?よう考えたら、時計いっぱい持ってるもんなぁ……イヤやった?」
服部が不安そうな瞳で覗き込んでくる。
「バーロ……イヤなワケねーだろ」
「え?何?」
聞こえなかったのか。更に近寄って覗き込む服部に腕を伸ばして。
「うわっ」
さっきよりも強く。きつく抱き締めた身体から香るのは、身体を洗った石鹸の甘い匂い。触れ合う頬から伝わる熱が、心地良い。
「お前がオレの為に選んで。オレの事を想ってくれたプレゼントが、イヤなワケねーだろ」
耳元で伝える声に。
「……そか」
呟いて。服部も、緩くオレの身体を抱き返す。
「喜んでくれたのやったら、良かった」
耳に響く、安心した事を伝える声色。たぶん、ホントに安心しきった笑みが浮かんでいるであろう表情。その全てが愛しくて。
「ありがとう」
伝えて、そっと唇を重ねた。
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