Many happy returns of the day.

 愛情には一つの法則しかない。
 それは愛する人を幸福にすることだ。

 これが、水神籤に書かれていた格言。



「晩飯美味かったなー。もうなんも食われへん」
「ははは、オレも。もっと食いたいとか言ったらお前異常だよ」
「せやよな」

 旅館に着いたら、丁度夕飯を出せる時間になっていて。着いてまずとった食事は、二人には多過ぎると思うくらいのボリュームだった。けど、全部無くなってる辺り、服部の胃袋がどう

なってるのか、一度本気でつくりを見てみたい。
 ごろり、そのまま畳に転がると。天井を仰いだままの姿勢で服部が瞼を閉じた。

「おい。そのまま寝るなよ?」
「寝えへん。まだ風呂も入ってへんし」

 この旅館は、大浴場もあるけど、専用の露天がついてる部屋もある。
 オレ達が泊まってる部屋は、その専用露天がついてる部屋で。部屋そのものも、本館とは別の、離れみたいなつくりになっている。

「ならいいけど。……しかし、静かだよな」
「隔離されとるみたいなモンやからな」

 食事を運んできたり、布団を敷きにきたり。仲居さんが来ている時以外は、完全に二人っきりの空間。そりゃパンフレットにも、カップルにお勧めとか、夫婦二人旅にお勧めとか書かれてるワケだ。
 普段も二人きりだけど、家に居るのとは別で。特別な空間での二人きりは、気持ちも特別なものになる気がする。
 テーブルを挟んで向こう側、まだ先程の格好のままの服部の方へ。四這いの姿勢で近付いて、瞼を閉じたままの服部の顔を見下ろす。

「なあ。風呂、一緒に入ろうぜ」
「変な事せえへんのやったらな」
「風呂ではしねーよ!」

 すぐ横に来た気配に、服部がころり横向きに姿勢を変えて。ホントにこのままにしてたら寝ちまうんじゃないか。そう思って。

「風呂ではしねーけど。このままなら襲っちまうぞー」

 言って、耳の縁に唇を寄せたところで。

「失礼します。お膳下げに参りました」

 仲居さんの声が聞こえて。慌てて元居た場所まで戻る。
 起き上がった服部が。

 あほ。

 そう聞こえそうな目で見てきたから、思わず唇を尖らせた。



「……誰や、風呂では変な事せえへん、ゆうてたの」
「別に変な事はしてねーだろ」

 布団の上。ぐったり気味でうつ伏せていた服部が、顔だけ上げて文句言いたそうにオレを見ている。
 実際、服部の言うような変な事、はしていない。ちょっと丁寧に身体を洗ってやっただけだ。
 暴れて、泡で滑って床に転がって。更に暴れて風呂に転がり落ちないように、オレに押さえつけられたカタチで洗われたりしたのは、服部自身が悪いのであって、オレのせいではない。

「そこまでせんでもええやろ、っちゅうトコまでクソ丁寧に洗ってくれたやないけ」
「綺麗になったんだからいいじゃねーか」
「誰も頼んどらんわ」

 恨めしそうな声で返すと。ぱたり、服部はまた枕に顔を埋めた。

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