Happy for you. 4.ふたり。

 朝の光と、鳥の鳴き声。
 目覚ましをかけなくても、いつもの時間に目が覚める。

 平次が目を覚ますと。
 すぐ目の前に、バカみたいに安心しきって寝ている新一の顔があった。

「……ホンマになんも求めへんかった事は褒めたろ」

 自分と新一の顔の間。
 握られている手を見て、少しだけ苦笑いを浮かべる。

「真剣なお付き合い……なぁ」

 沢山悩んだ挙句。
 自分は、新一を好きなんだと気付いた。
 新一も、自分を好きになってくれたらいいと思った。
 だけどそれだけだった。

 ただ、お互いに好き。
 それでいいと思った。

「タラシやし。チャラそーなツラとるくせして。意外と真面目っちゅーか、一途っちゅーか……」

 起こさないように、そっと手を引き抜いて。
 静かに布団から抜け出した。

「取り敢えず、素振り行て来よ」

 いつもと同じ朝。
 けれど隣に新一が居る朝は。
 なんだか心がくすぐったかった。





 目覚めると、隣に寝ていた筈の平次の姿がそこにはなかった。
 取り敢えず着替えて、階段を下りると。
 味噌汁のいい香りがして。

「おはようさん。工藤君、よう寝れた?」

 割烹着を身に纏った静華が顔を覗かせる。

「ええ、お陰さまで。……平次君は?」
「平次やったら、裏の庭で素振りでもしてるんとちゃいます?まだご飯でけてへんさかい、顔洗ったら覗いてみたら」
「はい。そうします」

 言われるまま、洗面所で顔を洗って。
 長い廊下を歩いて裏庭へと廻る。

「おう、工藤。起きたんか」

 静華の言った通り。
 裏庭が見える場所へ辿り着くと、竹刀を持った平次が、額の汗を拭いながら振り向いて迎えた。

「おはようさん。気持ちよさそうに寝とったな」
「ああ。お前の温もりが気持ちよかったからな」
「……朝から変な事言うなや」

 素振りで掻いたいい汗が台無し。
 そんな表情をする平次に、新一が小さく笑う。

「で?昨日の返事は?」

 廊下でしゃがみ込み、両手で頬杖をつきながら新一が問うと。

「んー……後でな」

 平次は言って、新一のすぐ横に置いてあるタオルを手に取り、ごしごしと顔を拭く。

「ご家族の前で、とか言うなよ」

 そんな新一の冗談に。

「言うかアホ」

 呆れた顔を返すと。
 タオルを新一に投げ、くるり背を向けて。
 平次は、竹刀を肩に、表へと向かってゆっくり歩いていった。

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