Happy for you. 4.ふたり。

「ただいまー……」

 遅くならないうちには返します。
 そんな事を言っておきながら。
 平次の家に二人が着いた頃には、すっかり夜もふけていて。

「えろう早いお帰りやなぁ」

 そんな事を言われるも。
 言っている静華の表情は怒ってはいなくて。

「おう、平次帰ったんか。工藤君も。よう来たな」
「どうも、お邪魔してます」

 次いで出てきた平蔵の表情も明るい。

「丁度今帰って飯にするとこや。食ってへんのやったら、二人も一緒に飯どうや」
「食う食う。腹減ってんねん。なあ、工藤?」
「あ、ああ」
「そしたらすぐに用意するさかい。お茶でも飲んで待っといて」
「ならオレお茶淹れるわ」

 静華に着いて行く平次の後姿を眺めながら。

「きんのまではあないに元気のうなっとった言うのに。すっかり元の平次に戻ったみたいやな」

 平蔵が呟くのが聞こえて。
 新一が平蔵の方を向くと。

「ホンマに……どんだけ工藤君の事が好きなんや。困った息子やな」
「はは……」

 実際にそうではないだろうが。
 まるで分かってるような冗談を言われて、一瞬焦ったのを見透かされないように。
 新一も、思い切り困ったような顔をしながら。
 ただ、乾いた笑いを平蔵へと返した。





「何で自分のベッドがあんのに、わざわざお前と同じ布団で寝なアカンねん」

 電気のスイッチに手をかけながら。
 平次が実に嫌そうに目を細めて、布団の上の新一を見下ろす。

「念のため。確認を兼ねて」
「これ以上何の確認や、何の」

 阿呆らしい。
 言いながら電気を消して、平次が自分のベッドへと向かって歩く。
 その手を掴むと、歩みを止めて平次が振り返る。

「取り敢えず、座れ」

 新一を見下ろす瞳がとても冷たい。
 単純な分、調子が戻るとすぐ元の態度に戻る。
 渋々座った平次は、相変わらずの表情で新一を見ている。
 分かりやすい性格は、それがいいところでもあるが、腹立つところでもあるな、と新一は思って。
 はぁ、と細い息を吐いた。

「聞きたい事があんだけど」
「何や」

 何かしたら反撃する。
 そんな言葉が聞こえそうな、警戒色の強い目。
 先ほど、自分からキスをしてきた相手とはとても思えない。

「お前さ」
「うん」
「オレと真剣にお付き合いする気はあんの?」
「は?」

 真顔で新一が告げた言葉に、平次の警戒色が解けた。
 その一瞬を見逃さず。
 新一は、両肩を掴んだと思えば、一瞬で平次を布団に組み敷いた。

「いきなり何すんねん!」

 親、驚いて部屋に入って来んぞ。

 平次のその声に、新一は思いながらやれやれと息を吐くと。
 一度瞳を閉じて息を吸い。

「お前さ、オレが好きなんだよな?」

 瞳を開くと、真っ直ぐ見下ろしてそう訊いた。

「そうや。せやから何やねん」
「オレもお前を好きだった場合、お前は本気でオレに向き合う気はあんのかって訊いてんだよ」

 今時。
 幼稚園児でさえ、お互いに好きならお付き合いを始めて、そう言う意味でキスすらする。
 だけどそれは、あくまでゴッコの域を超えない。

「……さあな。別に、好きやゆわれたワケやあらへんし」

 自分を押さえつける新一を、平次の気丈さを取り戻した瞳が見上げる。
 それを、新一の真摯な瞳が見下ろす。

「好きだよ」

 誰かを好きになるのに理屈はなく。
 例え、一瞬前までそうではなかったとしても。
 何かのきっかけで、すべてが変わる事もあって。
 今自分が感じる思いに嘘はなく、それはその時での真実。

 そして、既に高校生である自分達は。
 まして同性であれば尚更。
 一度始めたら、それはゴッコで終われない。
 そんな事分かっている。

「好きだ。友達としてじゃない。親友としてでもない」
「……それをオレに言わしたら。今度は間違えました、じゃ済まされへんで」
「分かってる」

 その先に何があるでもなく。
 ただお互いがある。
 それだけ。

「オレと、真剣にお付き合いする気。お前にはある?」

 押さえ付ける力が抜けて、自由に動けるようになっても。
 そのままの体勢で、平次は新一を見上げている。

「お前の言う真剣なお付き合いって、証明はどこにあるん?キスやセックスなんて、真剣やのうてもでけるし、オレはそこはあんま求めてへん」
「オレは正直、お付き合いとなればそこも求めると思うけど。証明は、今日一緒に寝てみたら分かるんじゃねーかな」
「……一緒に寝たいだけちゃうんか」
「ちげーよ」

 笑って、新一が横に避けて座るのを見て。
 平次は瞳を閉じ、ひとつ大きく息を吸うと。
 吐き出すと同時にその瞳を開いて。

「分かった。したら、答えは明日の朝に返す。今日はもう寝よ」

 言うと、またその瞳をそのまま閉じた。
 閉じた瞳は、もう開く気は無いらしい。

「いい返事が聞ける事を祈ってるよ」

 その意思を読み取って。
 くすり、小さく笑うと。
 平次の額に、触れる程度のキスを落とす。
 くしゃり髪を撫でると、平次の隣に体を横たえて。
 新一も、ゆっくりとその瞳を閉じた。

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