Happy for you. 3.和葉と新一。

 時が経てば。
 例えそれがどんな辛い事でも。
 過去と言う名の、想い出へと変わる。

 それでいいと、思っていた。





 けたたましく鳴り続けるベルの音。
 それが目覚まし時計のものではないと、新一が気付くまで、そう長い時間はかからなかった。

「……誰だよ、こんな朝早く……」

 時計を見れば9時をまわったところ。
 今日は祝日。
 寝坊したからと、蘭が起こしに来ている訳でもない。
 寧ろ、蘭であればとっくに部屋に来ている筈だった。

「はいはいはい……ったく、なんなんだよ。今出ます、って……――」
「工藤君!ちょぉどーなってんの?!」
「はい?」

 のろのろと階段を下りて。
 やっと辿り着いた玄関を、新一がめんどくさそうに開くと同時。
 勢い良く飛び込んできたのは、見覚えのあるポニーテールと近畿方言。

「なんで平次あないなことになってんの?!きちっと説明しーや!」
「え……いや、ちょっと」

 きつい瞳が物凄く近い。
 何がどうと言う感情もないけど、あまりの近さに、とっさに顔が赤くなるのを新一は止められなかった。

「と、遠山さん……?近い……っつーか、いきなり何?」

 片手で顔を覆いながら、後ずさる様に数歩下がって距離をとる。
 脈打つ心臓。
 その音は非常に早い。

 いたって普通の高校生男子。
 寝起きから女子に接近されれば、相手云々関係なしに、誰でもこうなると言うものだ。

「何やあらへんわ。工藤君、平次に何ゆうたん?!」
「……は?服部?……別に何もねーけど」
「嘘ゆうたらあかんで」
「嘘じゃねーって!」

 後を追って距離を詰める事はしなかったが、新一を見る和葉の瞳はとても強い。
 新一は、気圧され気味に苦笑いを浮かべた。

「と、とりあえず。ここで話してるのもなんだし。話聞くから……リビングで待っててくれる?オレ、着替えてくるし……」

 ぽりぽりと指先で頬を掻きながら新一が言うと。

「そーさしてもらうわ。早よ着替えてきて!」

 一つ息を吐き、和葉が扉を閉めた。
 靴を脱ぎ、横を通り過ぎてリビングへと向かうのを目で追って。

「なんだっつーんだよ」

 はあ、と大きな溜息を吐き。
 新一はガックリと肩を落とした。

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