Happy for you. 2.工藤編。

 ホテルとは言っても。
 別に如何わしいホテルじゃなく。
 いたって普通のシティホテル。
 ただ、ちょっとだけグレードが高い。
 そんな部屋に着いたのは、もう日付が変わろうとする頃。

「……おい。大丈夫かよ……」

 支えが無いと歩けない。
 それ位、完璧なまでに酔った服部を、引き摺るようにして室内へと運ぶ。

 ホテルに着いて一発目。
 バーで飲みたい。
 そう言った服部は。
 アルコール度数の高い酒ばかりを選んで飲んで。
 それ程時間をかけるまでも無く酔い潰れた。

「ほら。着いたぞ」

 ベッドに座らせ、離そうとした。
 その手を掴まれて、動きが止まる。

 見上げてくる、酔って潤んだ瞳には。
 恐らく、理性なんてものは残ってない。
 だけど。

「酔うてるし勃たへんけど。たぶん、オレがどうとか、関係あれへんのやろ?」

 最低やな。
 そう呟いた、あの時決めていたのか。

「こんだけ酔うたら、もう痛みも感じひんし。工藤の好きにしたらええわ」

 へらり、笑う。
 その笑顔が、あまりにも悲しそうで。
 理性は残って無くても、感情はしっかり残ってる。
 それが分かって、心が痛い。

 彼女のため。
 そしてそれが、服部のため。
 そう思ったけど。

「服部……お前……」

 オレの手を掴んでいたそれが伸ばされて。
 頬に触れて熱が伝わる。

「はじめよか?」

 笑顔が。
 まるで泣いているみたいに見えて。

 こんな相手に何かしたら。
 きっと神様は許してくれない。

 思ったら、心が苦しくて。
 ぎゅっと強く抱き締めた身体は、とても温かった。





 次の日の朝。
 服部が目覚めるよりも早く部屋を出て。
 朝一の新幹線に乗っていた。

 途中。
 携帯が鳴った。
 けれど、出ることはせず。
 電源も何度目かで切った。

 その後も、何度か服部から来た連絡を無視し続けたある日。
 押し掛けてきた遠山さんに、オレはまた酷く怒られる事になる。

 与えられた役を演じ切れなかったことではなくて。
 与えられたと思っていた役が、そもそもミスリードだったって事に。

 探偵失格。
 言われるのは、まだ少し先。





 To be continued.

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