Happy for you. 2.工藤編。

 学校の帰りに捕まえたから、当然と言えば当然だけど。
 学生服の服部は、この先何処に行くにも不便な点が多くて。

「服。買ってやるから。中で好きなの選べよ」

 歩きながら、自分が良く買うブランドの店が目に入って立ち止まる。
 オレが指差す方をちらり見てから。

「えー……ええよ、こない高い店のモン」

 言って落とした視線は。
 入りたくない。
 その意思表示のようだった。

「じゃ、お前の好きな店でいいから。取り敢えず着替えて……――」
「オレん家行ったらええやないか。なんでわざわざ、さらの服買うてまで着替えなあかんねん」

 落とされていた視線が上がって。
 少し睨むみたいに。
 きつい瞳がオレを捉える。

「学生服の奴を、ホテルに連れ込む訳にいかねーだろ。家族にバレそうになりながらの方がいいっつーなら、お前ん家でも構わねーけど?」

 怯む事無く。
 こちらも少し冷たい口調で答えると。

「……最低やな……」

 また愕然とするのかと思えば、そうではなくて。
 唇を噛み締めて、まるで苦しんでいるかのような顔。

「その最低な奴を、好きなんじゃねーのか?」

 眉が、僅かに動く。

 少し、下ろしたままに握り締めた拳は、小さく震えていたかも知れない。
 それが、怒りなのか、恐怖なのか。
 それとも別のものなのか。
 表情からは分からなかったけど。

「違うのかよ?なあ、服部?」

 名前を呼んだ。
 その後で。

「……」

 聞き取れなかった。
 けどたぶん。

 もう、ええ。

 そう唇が動いた気がした。

「……何処行くんだよ」

 くるり。
 背を向けて歩き出す背中に。
 後を追いながらに問い掛ける。

「服。オレの好きなトコで買うてくれるんやろ」

 振り向かずに答える声は。
 さっきまでとは違ってる。
 そんな気がした。





 その後の服部は、ずっと言葉少なく。
 どこか冷めているような。
 瞳も、そんな色をしていて。

 正直。
 二人で居て、こんなにつまらない時間はかつて無かった。
 それぐらいには冷えた時間。
 それが、体感的にひどく長い間続いた。

 一緒に食べた食事も。
 どんな味だったのか、全く思い出せない。

 オレは。
 何の為に、こんな事をしているんだっけ?

 タクシーの窓から外を眺める。
 無言のままの服部。
 その横顔に、表情は無い。
 
「……雨、降ってきそうやな……」

 誰にともなく呟いた声は。
 ちょっとだけ、悲しそうに聞こえた。

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