Happy for you. 2.工藤編。

「……なんでここに居んねん」

 オレを見るなり固まった服部は。
 いきなりキスをした時と同じくらいに表情は引き攣っていて。

「すぐに会いに行ってやるって言っただろ」

 言いながら肩に置いた手に、大袈裟過ぎるほどビクりと肩を震わせた。

 正直。
 服部に嫌われたい訳じゃないし、このリアクションはショックなんだけど。
 それを表情に出す訳にもいかないし。
 女優の息子だ。
 最後まできっちり演じきってやる。

「取り敢えず、どっかで珈琲でも飲まねぇ?」
「いや……今日は早よ帰らなオカンに怒られるし……」

 言いながら。
 やんわりと肩の手を退けて、服部が一歩オレと距離をとる。

「静華さんにならオレが連絡しといてやったぜ?今日、平次君お借りします、ってな」
「は?」
「よろしくって言ってたから安心しろよ」

 笑顔で告げると。
 絶望を絵で描いたみたいな表情になって。

「お勧めの店は?」

 そのまま無言になった服部の背中を叩くと。
 一歩、つんのめるように足を出して。
 二歩、三歩……。
 とぼとぼ、と言う表現が似合う感じで歩き出した。

 ちょっと可哀想だな。
 隣を歩きながら思ったら。
 少しだけ、胸がキリ、と痛んだ。





「で?ホンマは何しに来たんや、大阪まで」

 カフェで珈琲を飲んで。
 全然恋愛とは関係ない話をしているうちに。
 何とか普段の服部に戻ってきて。

「だから、オメーに会いに来ただけだって」
「そーゆーの要らんし」
「何照れてんだよ」
「誰が照れてんねん」

 この世の終わり。
 そんな顔から、いつもの表情を見せてくれた事に安心していた。
 つっても。
 服部が自覚するまで何度かそんな表情させなきゃならねーかもだけど。

 ホントに何でオレがこんな事しなきゃならねえんだ?
 思って、心の中で溜息を吐く。

「しっかし。お前、東京までよく来てくれてっけど。大変じゃねーの?」
「何が?」
「何がって……交通費とか色々」

 実際。
 相当だと思われる交通費を、依頼料も取らないコイツがどうやって出してるのかが謎だ。

「別に。貯めてるお年玉とか小遣いとか……そんなん何とでもなるし。用事で東京行く時は親父とかオカンが出してくれとるからなぁ」

 どんだけだよ、お前のお年玉と小遣い。

「それに……東京行ったら工藤が居るし。一緒に居ったら楽しいし。大変さよか、楽しさの方が大きいから。なんてことあらへんで」
「……そ、そうか……」
「ん」

 久々に見る笑顔。
 瞳を伏せながら珈琲を啜る姿に。

 一瞬、ドキリとした。

 それはきっと。
 友達として、嬉しい事を言ってくれたから。
 そうに決まってる。
 そうでなかったら……。

 頭の中が、ぐるぐる回って。
 珈琲の味を感じない。

「……どないしてん」

 気が付くと。
 じ、と。
 服部が、真っ直ぐこちらを見ていて。

「いや……見惚れてた」

 出た言葉はそんなで。

「さよけ……」

 服部に、ひどく落胆したような表情をされたけど。
 おそらく。
 一番落胆したのは、このオレだ。

 彼女は、人選を激しく誤った。
 いや……。
 実に適格だった。
 ……のかも知れない。

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