Happy for you. 1.服部編。

 そんで。

 工藤に勘違いされたまま迎えた夜。
 風呂も上がって、そろそろ寝よか。

 そんな時分に起きる事件。



 タックルされた。
 そう思う勢いでぶつかって来られて。
 一瞬、何が起きたか分からんかった。

「……工藤……?」

 どう考えても。
 こらおもっきし抱き締められとる。
 そう気付くまで数十秒。
 なんとか引き離そうとしたけど。
 えらいバカ力で、振り切るのもままならん。

 背後を取られたのは失敗や。

「……あれからずっと、考えてみたんだけどよ……」

 肩口に顔を埋めるようにしてるから。
 ダイレクトに声は耳に響いて。

 ぞわ、と。
 一気に立ち上がるさぶいぼ。

「オレ、大丈夫だと思う」

 なにが?

 大丈夫。
 普通なら勇気づけの言葉が。
 まさかこないな恐怖の一言に変わるやなんて。
 
 続けて、何を言おうとしてるのか。
 なんとなく分かる気がして。
 追い詰められたみたいに、思考が一瞬停止する。

「きっと、お前もすっげー悩んだんだよな。あんな切ない目でオレを見て……辛かったんだろ?」

 確かに悩んだけど。
 誰がきずつない目ぇで見とったんや、誰が。

 ほんまにアカン。
 早よ誤解解かな。

「うん……せやから……オレの話、ちゃんと……――」

 思って、なんとか振り返って開いた口が。

 塞がれた。
 それも、唇で。
  
 思くそ見開いた目ぇに映るのは。
 瞳を閉じた、工藤のドアップ。
 っちゅうか。
 ドアップ通り越した、閉じられた瞳だけ。

 真っ白になった頭が、事を理解したのは。
 工藤が離れて、熱っぽい目ぇでオレを見とって。
 気色悪っ!
 思って、さぶいぼ第二弾が現れてから。

 大凶恐るべし。

 一瞬。
 気ぃ失って、倒れるかと思った。





「な……ななな……なにしてけつかんねんーっ!」

 火事場のなんちゃら。

 あんだけ引き剥がせなかった工藤が。
 壁突き破るんちゃうか、って勢いで吹っ飛んで。
 上体だけで起き上がると。
 ぽかんとした目ぇでオレを見た。

「アホかおどれっ。こん変態っ!」

 ぐしっと唇を袖で拭って。
 怒り過ぎて震える声。
 それと身体。
 同じく、怒り頂点で目尻に滲む涙。

 ファーストキス奪われた乙女か。

 自分でツッコミ入れたなるけど。
 そんなんどうでもええ位、頭の中はパニックや。

「……ごめん……」

 ぽかんとした顔のまま。
 工藤が、ぽつりそう呟く。

 やっと分かってくれたんやな。
 と、思ったけど早かった。

「そうだよな……いきなりは驚くよな……悪い」

 ふぅ、と小さく息を吐いて。
 ゆっくり立ち上がったと思えば。

「物事には順番ってモンがあるよな。オレ、頑張るから」

 なにを頑張るねん、なにを。

 言って。
 ぽん、と肩に手を置いて。
 恐らく、工藤の中では特上の笑みがオレに向けられた。

「……せやから……」

 オレの話聞けや。

 言う気力も、最早のうなってて。
 溜息吐いたら、えらい優しく頭撫でられて……。

 もう、泣いてまおうかな。
 思ったら、ほんまに泣けてきた。

「……泣くなよ。もういきなりとかしねーから。大事にすっから」
「……はぁ……」

 撫でる手ぇは優しく。
 その後もずっと。
 寝るまで工藤は優しかった。

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