Happy for you. 1.服部編。

 工藤の事。
 好きか嫌いか言われたら、当然好きやと言えるけど。
 せやからっちゅうて、そない意味での好きとは直結せえへん。
 けど。
 違いを言え、ゆわれたら。
 その違いも、うまいこと答えられへん。

 ような気ぃする。

「そう言やこの間、遠山さんから変なメール来たんだけどよ……」
「へ?和葉から?」

 言いながら、携帯を取り出して。
 そのメールを探してるらしい工藤に。
 何を言われるんやと、心臓が縮まるみたいにきゅーっとなる。

「あ、あった。『工藤君のこと恨むわ』って。なんだこれ?」
「……あいつ……」

 伝えられた内容に心底ガッカリしつつ。
 片手を額に当てて、俯い後は溜息しか出えへん。

「お前、彼女に何か言ったのか?何の事だって返しても返答ねーし。意味分かんねえんだけど」

 そらそやろ。
 心で呟いて、また溜息。

「もう……なんか……すまん、としか言われへん」
「あぁ?やっぱ何か言ったのかよ?何言ったんだ」
「いや……なんも言うてへんし。大体、オレも意味分からんし」
「はあ?」

 工藤が困ってるのか、疑ってんのか……どっちか分からん顔してて。
 オレもどうしたらええのか分からんくて。
 少しの間。
 無言のまま、微妙な空気だけが二人の間に流れて。

 諦めて。
 口を開いたのはオレ。

「……和葉にな。言われたんやんか」
「何を」

 顔を上げて。
 視界に映る工藤の顔は。
 確かに、イケメンゆわれる綺麗な顔や、と思うけど。
 あくまでイケメン。
 男や男。

「お前と……工藤とメールしとる時の顔が。少女漫画の主人公も吃驚する顔やって」
「……なんだそれ」

 ほんまにな。
 オレもそう思う。
 言うのを挫けそうになって。
 けど、そこは踏ん張って。
 取り敢えず言葉を続ける。

「せやからな……」
「ああ」
「オレがな……」
「うん」
「お前をな……」
「……」

 言葉が進む程。
 何でか知らんけど、工藤が微妙に赤うなってく気ぃする。
 それにつられてか。
 オレもなんや気恥ずかしゅうなって。

「す……好きなんとちゃうか……て」

 言葉の最後の方はほんまに小っさくなって。
 聞き取れるか微妙なとこやったけど。
 たぶん、聞こえてるんやろな、っちゅうのは。
 完全に真っ赤になった、工藤の耳でよう分かる。

 ちゅうか。
 何やこの空気。

 工藤。
 何で照れてんねん。
 そんでオレ。
 何て漫画の告白シーンや、これ。

 また訪れる、無言の時間。
 空気が果てしなく重い。

 男同士でなにしてんねん。
 その空気を破ったのは、今度は工藤。

「……オレ……男だけど」
「……知っとる。ちゅうか、女には見えん」
「だよな」

 口元に手をあてながら、どっか眺めて考えてる。
 そんな工藤の様子を見てたら。
 はっと冷静な自分に瞬間的に戻って。

 やばい。
 その一言が頭に浮かんだ。

「いや、ちゅうか、アレやぞ?!和葉が言っとっただけでっ!オレがほんまにどうとか……――」

 みな言い終える前に。

「分かった。分かったから。ちょっと考え纏めさせろ」

 目の前に、開いた片手をばっと出されて。
 瞬間的に飲み込んだ言葉は、続けて出て来る事は無く。
 くるり、背を向けて。
 何やら考え込んどるらしい工藤の背中にただ思う。

 さっぱり分かってへんし。
 ちゅうか、頼むからオレの話聞いて。
 
 そんなオレの気持ちに気付く事も無く。
 勝手に歩き始めた工藤は、その後も考え込んで黙ったままで。
 なんぼ話し続けようと試みてみても。
 いっこもそこから進む事はでけへんかった。

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