Happy for you. 1.服部編。

 ……あん時の和葉の言葉のせいや。

 あんなん言うから。
 気ぃついたら工藤の顔ぼーっと眺めてる事が多くなって。
 そのたんび工藤に変に思われて。
 自分で自分が信じられへんようになって……。

 やっぱ、おみくじが大凶やったからやろか。



「なんか悩みでもあんのか?だったら話ぐらい聞いてやるけど」

 ぽん、と。
 肩に手を置かれただけで、大袈裟なほどびくりと肩が震えて。
 自分も驚いたけど、それ以上に工藤のが驚いて。
 そのまま固まってるのが、気配で分かる。

 こらあかん。

「すまん。最近オレおかしいねん。気にせんといて」

 なんとか笑顔を作って振り向いて。
 顔の前で両手を振って見せるけど。

「服部……お前……」

 工藤の表情が怪訝に曇って。
 洒落で誤魔化されへん空気が漂う。
 なんとか空気変えな。

「あー……そや、そろそろ飯食いに行かへん?オレ、腹減って……――」
「服部」

 空気変え失敗。
 工藤の顔は真剣そのもの。

「お前……オレの事……」

 工藤の声に。
 あん時の、和葉の声が重なって聞こえる。

 ――工藤君の事、好きなんやね――

 ぎゅっと目を瞑って。
 覚悟を決めて。

「嫌いなんだろ」

 聞こえた言葉は全くの真逆。

「……は?」

 ぽかんと。
 工藤に向けてる口を開いたその顔は。
 たぶん、相当間抜けな顔やと思う。

「嫌いて……え?」

 ショックを受けてるみたいな顔してる工藤に。
 和葉ん時とは全然違った意味での動揺と。
 混乱が一気に頭を支配する。

「前々から、そうなんじゃねーかなって思うような事はあったけど……まさか、ホントに嫌われてるなんてな」

 自嘲気味の笑みを浮かべて、寂し気に語るその姿は。
 ショックを受けてるみたいなんと違て、ほんまにショックをうけてるらしい。

 ちゅうか、前々から嫌われてる思っとったんかい。
 なんでやねん。

「いや、待って。なんでそーな……」

 嫌いなヤツと、ちょっちゅうメールやら電話やらするかいな。
 嫌いなヤツに、わざわざ会う為に東京まで出て来るアホがどこに居る。

「近寄ったり肩に触れただけで嫌がるじゃねーか。ホントは傍に居るのも嫌なんだろ?」
「あー、ちゃうちゃう。それは嫌なんと違て……」

 片手で顔を覆って。
 なんて言ったらええのか。
 次の言葉を探してみるけど。
 うまい言葉が見っからなくて。

「ほんまにそうなんか、とか。自分の中でもワケ分からんようになっとって。無駄に意識し過ぎとるっちゅうか、なんちゅうか」
「……なんだそれ」

 説明しようと出て来る言葉は。
 自分が聞いても、たぶんよう分からん。
 工藤の頭上にも『?』が大量に浮いてるのが分かる。

「とにかく、嫌いとか有り得へんし。気にせんといてや。な?」

 ぱんぱん、と。
 片手で工藤の肩を叩いて。
 また作った笑顔を向けると。
 ちらり、その手を見た後で。

「……分かった」

 言った、工藤の表情は。
 納得したようには見えへんかった。
 けど、そんでもさっきまでよか大分マシで。
 ちょっとだけオレも安堵した。

 けど。
 いっそ、『その通り!嫌いや!』と言った方がマシやった。
 そう思う羽目になるとは。
 後悔先に立たず。
 ほんまにそうやと身に染みる。

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