バレンタイン・キッス

「お前、まさかあの後は動画とか撮ってへんやろな」
「あの後って……ははは、流石に撮ってねーよ」


 下手したらチョコよりも甘かったかも知れない。そんな昨晩が浮かんで、新一が片手を顔の前で横に振る。その様を、まだ不審気に目を細め見ている平次に。


「あー、でも」


 思い出したように。


「写真は1枚だけ撮った」


 言って、にっと笑う。


「いつ」
「お前が寝てから」
「……」


 黙っている平次の前で。サイドボードの上に置いていたカメラに手を伸ばし、掴んだそれを操作する。その姿を見ていた平次も、同じようにテーブルの脇に置いていたカメラを手に取り、操作を始めた。


「いや、寝顔がさー」


 1枚。画像を表示させた画面を、二人同時に互いに向ける。


「可愛かったから」
「アホみたいやったから」


 ぱちぱちと。新一が数度、瞬きをする。


「……いつ撮ったんだよ」
「朝。目ぇ覚めた時」
「つーか、アホみたいってなんだよ!」
「ホンマのことやからしゃーない」
「……」


 自分のカメラを置いて、平次のそれを手に取り。画面に視線を落とす新一を見てから、平次も新一のカメラを手にして、その画面を眺めた。


「……これのどこがアホみたいなんだよ?」


 新一が不思議そうに平次を見ると。


「アホみたいに幸せそうな寝顔やろ?」


 言って、平次が笑った。










 互いの手の中のカメラ。その画面の中に。
 撮った本人が、愛しいと思って撮った、その心情さえ分かるような。とても幸せそうな、お互いの寝顔。それが映っていた。

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